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今回の東日本大震災では家計向けの地震保険が注目を集めた。支払金額は1兆円を超え、阪神・淡路大震災(783億円)の10倍以上に達したという。しかし、この家計向けの地震保険については、民間の損保会社がリスクを負っている訳ではなく、リスクは「地震再保険」という仕組みを通じて政府(国民全体)に移転されている。地震リスクは民間の手に負えないものとされているのだ。
一方、生命保険の分野においても、静かに緩やかに進んでいるリスクがある。それは、長寿化が進むことによって終身年金の支払いが増えるリスクであり、これも民間の手には負えない。
終身年金は、人間が何歳まで生きるか誰にも分からない中で、長生きすることによって生活資金が枯渇してしまうリスクをカバーするために考案された優れた仕組みで、世界各国の公的年金で採用されているが、長寿化が進めば全体の支払額が増えてしまうという問題がある。
その問題はひとまずおくとして、終身年金の仕組みがうまく機能するかどうかは社会全体のお金の流れや消費動向に影響する。終身年金の仕組みがうまく機能しないと、高齢者は自分や配偶者が何歳まで生きるか分からないので、たとえば100歳まで長生きしても生活に困らないようお金を貯め込みがちである。現実には100歳まで生きる人は少ないので、亡くなった時点ではお金が余り、こうしたお金は「意図せざる遺産」として相続されることになるが、近年の長寿化の下では相続する側の平均年齢も60歳代であり、お金は長生きリスクに備えて再び貯め込まれることになる。つまり、いつまで経っても、お金はぐるぐる回るだけで、お金の本来の目的である消費に向かわない。
逆に、終身年金の仕組みがうまく機能すれば、余分なお金を自ら消費して豊かな生活を送ったり、生活に余裕のない子どもや孫に援助したりすることによって、全体として、経済の成長や生活レベルの向上が図られることになる。
公的年金の水準が十分なものであれば終身年金の仕組みがうまく機能するのだろうが、それは期待しにくい。今後、わが国の公的年金の給付水準はマクロ経済スライドの適用により実質的に現行の80%強の水準まで引き下げることがスケジュール化されているが、直近の財政事情などからすれば、それに加えて、さらなる引き下げを覚悟する必要がある。そうした中では、民間で終身年金商品を提供し、公的年金を補完していくことが大事だと考える。
しかし、想定以上に長寿化が進んで支給額が増加するリスクを民間で全面的に負うことはできない。公的年金を補完すべく、民間で終身年金商品を提供するが、一定年齢(たとえば男性80歳、女性85歳)以降の給付については、国が「長寿再保険」として引き受ける(もちろん民間生保会社から対価を収受した上で)といったアイディアは考えられないだろうか。
(2011年08月24日「基礎研マンスリー」)
明田 裕
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