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ノーベル賞とジェロントロジー
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鈴木・根岸両教授によるノーベル化学賞受賞は、はやぶさの帰還と並んで日本の科学技術水準の高さを証明する快挙だった。受賞対象の「クロスカップリング」は、性質の全く異なる有機化合物を触媒を介して合成し、新たな化合物を作り出す技術であり、薬品や液晶等幅広い分野に応用されているとのこと。この説明を聞いていて、我々の取り組んでいるジェロントロジーと近いものを感じた。
ジェロントロジーは、様々な学問分野の知見を総合的に活用して、高齢化に伴う課題の具体的な解決策を見つけようというものであり、世界に例のない急速な高齢化の真っ只中にある我が国に於いて、極めて大切な研究である事は疑いがない。当研究所では、早くからこの研究の重要性に着目して、東京大学におけるジェロントロジー研究の立ち上げを支援すると共に、重要な研究課題としての取り組みを進めてきている。しかしながら、関係者の努力にも拘わらず「ジェロントロジー」という言葉が人口に膾炙するには至っていない。説明の都合上つい「老年学」や「加齢学」といった日本語に置き換えてしまうと途端に色あせて、高齢化に関する様々な研究の寄せ集め、という矮小なイメージが持たれてしまい、それ以上の発想に繋がらないのが残念だ。
しかしながら、ジェロントロジー思想の真価は、過度に細分化され「木を見て森を見ない」現代科学の流れに対する一種のアンチテーゼを主張するところにある。その意味で「ジェロントロジー」をクロスカップリングにおけるパラジウムなどと同様に、異なる分野の研究者を結びつける一種の「触媒」機能を果たす概念と位置付け、従来からの「老年学」や「加齢学」とは一線を画す新しい概念として打ち出してゆくべきではないだろうか?
その意味で、東大におけるジェロントロジー研究拠点である東京大学高齢社会総合研究機構のリーダーである機構長を、自動車工学の専門家である鎌田実教授が勤めているということ自体が、ジェロントロジー先進国の欧米諸国にも見られない画期的な事実であり極めて意義深い。
急速な高齢化と人口減少により、絶対的な負担能力の低下が不可避な社会保障の分野に於いても、医療・介護・年金・福祉をそれぞれ独立した制度として設計・運営し続ける事はもはや不可能であろう。寧ろ、人々が住み慣れた地域で最後まで安心で豊かに生活してゆける社会(Aging in Place)を目指して、社会保障制度だけでなく、交通体系、都市・住宅設計、更にはコミュニティーづくりを含めたあらゆる分野の知見を、クロスカップリングにおけるパラジウムのように結びつけて、新しい成果を生み出すことこそが「ジェロントロジー」の目指すところであり、現在東大ジェロントロジーが取り組んでいる千葉県柏市における様々な実証実験の成果が、クロスカップリング同様、高齢社会の様々な課題解決に役立つ日本発のモデルとして実を結ぶ日が一日も早く来ることを期待している。
(2010年12月24日「基礎研マンスリー」)
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