コラム
2010年04月01日

金融ADR制度について

小林 雅史

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2009年6月の金融商品取引法、銀行法、保険業法等金融関連法の改正により、2010年4月から金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR、Alternative Dispute Resolution)の中核となる制度として、指定紛争解決機関制度が導入され、2010年10月から金融機関に対し、指定紛争解決機関との契約締結が義務付けられる。

指定紛争解決機関は、苦情処理・紛争解決手続を実施する機関として業態ごとに主務大臣が指定し、金融機関は指定紛争解決機関との、(1)苦情処理・紛争解決手続の応諾、(2)事情説明・資料提出、(3)手続実施者の解決案の尊重といった内容を含む契約締結が義務付けられる。

こうした動向を受け、金融庁から、2010年3月12日「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR)ガイドライン(案)」が、3月30日「金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)に係る監督指針等及び金融検査マニュアル等の一部改正(案)」が公表された。

前者では、指定紛争解決機関の指定申請に対しての審査基準として、紛争解決等業務を行う者の経理的基礎・技術的基礎、他の指定紛争解決機関との連携、ホームページやポスター等による利用者への紛争解決等業務の周知等が求められ、後者では、金融機関に対し、顧客への指定紛争解決機関の周知等 (保険会社の場合、契約締結に当たり顧客への開示が求められている「注意喚起情報」への指定紛争解決機関の名称等の記載や、苦情等を申し出た顧客に対する苦情等の内容や顧客の要望等に応じた適切な外部機関等の紹介など) が求められている。

後者については、英国において類似の例がある。すなわち、英国においては2000年制定の金融サービス市場法により、それまで銀行、住宅貯蓄組合、保険等、業界ごとに任意に設定されていたADR機関が一元化され、英国金融庁(Financial Services Authority)が監督している金融機関全体の法定ADR機関としてFOS(Financial Ombudsman Service)が設立されており、英国金融庁の規則によれば、保険加入時の事前配布が義務付けられている当初開示資料(initial disclosure information)に「苦情はFOSに申し立てできること」等の記載が求められている。

こうした契約締結に当たって保険会社に顧客への配布が義務付けられている書面への記載により、英国ではFOSへの、わが国では指定紛争解決機関への顧客からの苦情・紛争処理申立てが担保されることになろう。

なお、生命保険協会のホームページによれば、紛争解決機関として2001年4月より裁定審査会を、運営状況をチェックする機関として裁定諮問委員会をそれぞれ設置し、中立・公正な苦情・紛争解決支援に努めてきたが、上記金融ADRの法制化の動向等も踏まえ、更なる利用促進・利便性向上を目指して体制の一層の強化を行うとのことであり、生命保険業界の指定紛争解決機関の動向も含め、注目される。

諸外国も含めた金融ADR制度全般の動向等について引き続き注視していきたい。
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