- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 仕事と生活の調和(ワークライフバランス) >
- 子ども手当26000円を上回る「経済支援」-待機児童問題と女性の就労継続
コラム
2009年09月11日
2009年9月7日の厚生労働省の発表によると、待機児童問題がこれだけ騒ぎになっているにもかかわらず、認可保育園の待機児童数(2009年4月1日ベース)が2年連続の増加となった。対前年増加率も29.8%にのぼり、この10年間で最大の増加幅となった。待機児童数は全国で2万5,384人。待機児童が2万人を超えたのは平成17年(2005年)の2万3,338人以来のことである。2008年末の経済の悪化がいかに家計に影響しているか、子供を預けて働きたい親が増えているかを物語っている。
しかし2008年末の経済悪化がなかったとしても、待機児童問題対策には問題がある。
2008年4月1日から2009年4月1日の認可保育所の定員数の増加は1万1,192人にとどまっており、定員増加数は2001年からの推移でみると過去最低の増加数となっている。毎年2万人前後の待機児童が発生しているにもかかわらず、保育所の定員増加が2008年、2009年と1万人台で停滞している状況は、働きながら子育てを行いたいと考えている親、または親予備軍にとって厳しい環境と言えよう。
母親の第一子出産年齢は2007年平均29.4歳であるが、この年齢の女性がもし勤務を続けながら子どもを生むことが出来れば、平均月23万円から25万円の給与(平成20年賃金構造基本統計調査)を得ながら子育てすることが出来る。3歳未満児の保育料の所得比例最高額(自治体によって異なる。延長保育を除く基本保育料で、東京都足立区68,500円、北区57,500円、神奈川県横浜市62,500円など)を保育料として支出しても手元にはおよそ月15万円以上が残る。民主党がマニフェストで掲げる子ども一人当たり月26,000円の子ども手当をはるかに上回る金額が保証されるのである。
しかしこれはあくまでも女性が出産・子育てをしながら就業を継続できた場合の計算である。現実には、わが国では子育て期にあたる30代女性の労働力率が6割台に低下する現象が生じており、出産・子育てが就労中断の原因になっていることがわかる。
待機児童問題の解消は、働く意欲がありながら、子どもの保育問題が原因で働くことが出来ない女性の就労を支援するには必須の政策である。子どもを保育園に預けながら、一定の収入を得られるのであれば、少なくとも月々26000円をもらいつつも保育園に入れられず経済的不安を抱えたままよりも、母親が次の出産を考える心のゆとりが生じるであろう。
また、未婚かつ結婚・出産希望がある女性について、「出産や子育てに不安がある理由」のトップが「経済的なこと」64.4%であり(2006年パソナ調査)、これから妊娠・出産を考える女性にとっても、待機児童問題に代表される保育所の不足の解消は、「もし出産したら仕事をやめなくてはならないかもしれない」という大きな経済不安の解消をもたらすであろう。
待機児童問題の解消は、就労の中断を考えていまだ出産に踏み切れない女性への出産・就労継続支援策として、重要である。
勿論、待機児童問題が解消されれば、すべてが解決するわけではない。保育園に子どもを預けられたからといって、安定した職がなければ、経済的な不安は解消されないからである。子どものいない既婚女性について、「出産や育児のために必要なこと」をきいたところ、トップの理由は「職場の理解や両立支援環境の整備」であり、その割合は66.4%にものぼる(2006年同上)。
2009年7月に公布されたばかりの改正育児・介護休業法において3歳未満の子を養育する労働者に対し、事業主が6時間程度の短時間労働と残業免除の選択肢を提供することが義務付けられたが、子育てをしながらも働き続けられる就業環境を一企業の努力にとどまらず社会的に整備していくことがなければ、出産・育児に関する女性の不安は解消されることがないであろう。
しかし2008年末の経済悪化がなかったとしても、待機児童問題対策には問題がある。
2008年4月1日から2009年4月1日の認可保育所の定員数の増加は1万1,192人にとどまっており、定員増加数は2001年からの推移でみると過去最低の増加数となっている。毎年2万人前後の待機児童が発生しているにもかかわらず、保育所の定員増加が2008年、2009年と1万人台で停滞している状況は、働きながら子育てを行いたいと考えている親、または親予備軍にとって厳しい環境と言えよう。
母親の第一子出産年齢は2007年平均29.4歳であるが、この年齢の女性がもし勤務を続けながら子どもを生むことが出来れば、平均月23万円から25万円の給与(平成20年賃金構造基本統計調査)を得ながら子育てすることが出来る。3歳未満児の保育料の所得比例最高額(自治体によって異なる。延長保育を除く基本保育料で、東京都足立区68,500円、北区57,500円、神奈川県横浜市62,500円など)を保育料として支出しても手元にはおよそ月15万円以上が残る。民主党がマニフェストで掲げる子ども一人当たり月26,000円の子ども手当をはるかに上回る金額が保証されるのである。
しかしこれはあくまでも女性が出産・子育てをしながら就業を継続できた場合の計算である。現実には、わが国では子育て期にあたる30代女性の労働力率が6割台に低下する現象が生じており、出産・子育てが就労中断の原因になっていることがわかる。
待機児童問題の解消は、働く意欲がありながら、子どもの保育問題が原因で働くことが出来ない女性の就労を支援するには必須の政策である。子どもを保育園に預けながら、一定の収入を得られるのであれば、少なくとも月々26000円をもらいつつも保育園に入れられず経済的不安を抱えたままよりも、母親が次の出産を考える心のゆとりが生じるであろう。
また、未婚かつ結婚・出産希望がある女性について、「出産や子育てに不安がある理由」のトップが「経済的なこと」64.4%であり(2006年パソナ調査)、これから妊娠・出産を考える女性にとっても、待機児童問題に代表される保育所の不足の解消は、「もし出産したら仕事をやめなくてはならないかもしれない」という大きな経済不安の解消をもたらすであろう。
待機児童問題の解消は、就労の中断を考えていまだ出産に踏み切れない女性への出産・就労継続支援策として、重要である。
勿論、待機児童問題が解消されれば、すべてが解決するわけではない。保育園に子どもを預けられたからといって、安定した職がなければ、経済的な不安は解消されないからである。子どものいない既婚女性について、「出産や育児のために必要なこと」をきいたところ、トップの理由は「職場の理解や両立支援環境の整備」であり、その割合は66.4%にものぼる(2006年同上)。
2009年7月に公布されたばかりの改正育児・介護休業法において3歳未満の子を養育する労働者に対し、事業主が6時間程度の短時間労働と残業免除の選択肢を提供することが義務付けられたが、子育てをしながらも働き続けられる就業環境を一企業の努力にとどまらず社会的に整備していくことがなければ、出産・育児に関する女性の不安は解消されることがないであろう。
(2009年09月11日「研究員の眼」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1878
経歴
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/24 | 若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
2025/03/07 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
2025/02/05 | 【地方創生・人口動態データ速報】2024年 社会減(国内移動純減)都道府県ワーストランキング-日本人と外国人の合計で移動純減は40エリア- | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
2025/01/16 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月25日
今週のレポート・コラムまとめ【3/18-3/24発行分】 -
2025年03月24日
なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか-「おひとりさま」消費に関する一考察 -
2025年03月24日
若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る -
2025年03月24日
中国:25年1~3月期の成長率予測-前期から減速。目標達成に向け、政策効果でまずまずの出だしに -
2025年03月24日
パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【子ども手当26000円を上回る「経済支援」-待機児童問題と女性の就労継続】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
子ども手当26000円を上回る「経済支援」-待機児童問題と女性の就労継続のレポート Topへ