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- 大量供給時代の終わりの始まり、永住型マンション価格にイノベーションを
最近のマンションにおいて、商品企画の進歩が著しいことは言を待たない。これは、最大のライバルであった戸建住宅を目標に、マンションが戸建住宅の機能や設備を巧みに消化し、取り入れつつ、マンションでしか実現できない付加価値を開発してきた結果といえる。たとえば、庭付きで犬や猫が飼えることが戸建住宅の魅力でもあったが、ガーデニングができるスロップシンク(泥水用の流し)が付いた奥行きのあるバルコニーや、小型ペットが飼育可能な管理規約を持つマンションは、新築では一般的だ。限られた空間を広くするための間取りの工夫や、収納機器の開発も進んだ。一方、外壁や窓ガラスの高い防音・断熱性能、宅配ボックス、キッチンのディスポーザー、バリアフリーの敷地内・室内動線、二重三重のセキュリティシステム、防災備蓄倉庫、AED(自動体外式徐細動器)などを、個人が戸建住宅で実現することは難しい。
以上を現在の新築マンションの標準仕様とした上で、長寿命の永住型マンションにふさわしいスペックを列挙してみたい。まず、将来の間取り変更や修繕工事が容易なスケルトン・インフィル構造は不可欠である。二重床・二重天井はリフォームを容易にするばかりか、防音にも優れる。さらに、天井高や床下の深さに余裕があり、間口の広いワイドスパンタイプであれば、開放感を享受できる上、隣家や上下階からの生活騒音もさほど気にならなくなるだろう。共用廊下に寝室など居室の窓が接しない設計、通風や採光に優れるだけでなく生活騒音も緩和する角部屋や雁行タイプの平面プランも望ましい。地震の振動を逃がす免震構造は、住戸内住民の安全性や資産価値の維持に優れ、永住型マンションにはぜひ欲しいスペックだ。
これらは、すでに商品化されたものばかりだが、すべてを兼ね備えたマンションを建設するとなると、現状ではかなり高価格にならざるをえないだろう。本格的な永住型マンションの普及における最大の課題は、多くの生活者が納得できる価格を実現できるかどうかに尽きる。土地神話崩壊から20年が経とうとする現在、住宅が売れにくくなっている本質的な理由のひとつに、買手が負うリスクが大きくなったにもかかわらず、それに見合うスペックと価格の商品が提供されていないことがあるのではないのか。マンションは個別性が強く、その分譲価格に更地価格と建築費が大きく影響することは否定しないが、不動産会社がこれまで自動車メーカーや家電メーカー並みのコスト削減努力をしてきたとも思えない。また、政策面では、2009年6月に長期優良住宅への優遇税制が導入されたが、建築コスト削減支援など一層の推進策が望まれる。
安くて広いマンションが、実は柱が少なくて細い「耐震偽装マンション」だった記憶は、まだ生々しい。しかし、マンション不況の中、設備機器の選択性採用や共用施設の省略などで基本性能を確保しつつ、建築費を最大20%削減できるマンションを提案する建設会社も現れた。次は、価格を変えないでスペックを引き上げる工夫だ。また、東京湾岸の都有地で70年の定期借地権を利用したマンションが、価格の安さで話題になった。法定容積率いっぱいに建てられた最近のマンションにおける、40~50年後の建て替え決議の困難さをアピールすれば、さらに長い終期を持つ定期借地権を許容する世帯も増えるだろう。特に、住宅コストが非常に高い首都圏であれば、かなりの潜在需要が期待できそうだ。
住宅ローンにももっと工夫が欲しい。デフォルト率の低さにもかかわらず、ローン金利が高すぎるのではないかとの指摘があるが、一部の外資系金融機関は、一般的な住宅ローンと比べて金利面で遜色ないノンリコース・ローン(銀行の求償権が不動産以外の資産に及ばない貸付)を提供しはじめた。これならば、借手は最悪でも住宅を手放せば債務は残らず、失業などの不測の事態があっても、生活の出直しが容易になる。
すでに、東京や横浜などの住宅ストックに占めるマンションの割合は、25%を超えている。また、国は、市街地の拡大と宅地の供給促進を目指したこれまでの都市計画制度を見直し、市街地の拡大を抑えて集約型都市構造「エコ・コンパクトシティ」に誘導する方針とされるが、これはマンションを都市の標準的な居住形態とすることに他ならない。多くの国民が生涯安心して住み続けられるよう、永住型マンション価格におけるイノベーション実現を関係者に強く期待したい。
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松村 徹
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