コラム
2009年07月24日

深刻化する中国の公害問題と日本の果たすべき役割

三尾 幸吉郎

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私が子供の頃は多摩川も清流でした。父に連れられて魚釣りによく出かけたものです。ある時、いつものように魚釣りに出かけると、魚が苦しそうに口をあけて浮き上がっていました。その光景は今でも鮮明に思い出すことができます。その後、父が私を多摩川へ魚釣りに連れて行ってくれることはありませんでした。私が6、7歳の頃ですから、1965年前後であろうと思います。今から思えば、日本が高度経済成長を遂げる中、四大公害病(イタイイタイ病、水俣病、第二水俣病、四日市ぜんそく)が深刻化し、1967年に公害対策基本法が制定される直前のことでした。

その後もダイオキシン、アスベストなど公害問題は絶えることなく、水俣病救済法はこの7月8日に成立したばかりです。しかし、「逆浸透膜」を使った技術など日本の水質浄化技術は世界のトップレベルに達しており、多摩川も天然のアユが遡上できるほど水質が改善しています。東京都島しょ農林水産総合センターが1983年から毎年実施している「平成20年多摩川稚アユ遡上数調査」によると毎年100万尾以上の稚アユが遡上し、調布取水堰(ぜき)に見られるアユの遡上は東京の初夏の風物詩となったほどです。

一方、2007年5月には、中国の河南省洛陽市で、魚が川の汚染で酸欠となり、浮いた50万尾の魚を、周辺住民が食すために一斉に群がり捕まえたという事件が報道されました。その後も、同年8月には米国玩具メーカーの中国工場で製造された玩具製品の塗料から基準値を超える「鉛」が発見されたり、翌年1月には中国から日本へ輸入された冷凍ギョーザにメタミドホスが混入し中毒問題が表面化したり、中国国内でも「メラミン」に汚染された粉ミルクによる健康被害が発覚したりと、中国の公害問題はむしろ深刻化しています。

中国政府の取り組みも本格化し、今年6月には「第2回日中ハイレベル経済対話」、「日中資源循環政策対話」、「日中環境汚染対策協力ゴールデンウィーク」と、日本が中国の環境問題解決を官民共同で支援する動きがでてきました。その内容も、政策面では現状把握のための汚染状況調査や工場への規制作り等、技術面では河川や湖沼の水質浄化技術や家電や産業廃棄物のリサイクル技術等、多岐に渡るものとなっています。今こそ、一足先に高度経済成長を経験し、一足先に公害問題の苦しい経験を経た日本としては、中国の健全な経済成長に全面的に協力し、同じ不幸を隣国に繰り返させぬことが大切だと思います。

中国経済は高成長を続け、世界第3位のGDP、2兆ドルを超える世界一の外貨準備を保有する金持ち国となり、もはやインフラ建設への資金援助を中心としたODAの必要性は薄れたと思います。しかし、中国が公害問題を克服するためには、苦い経験の中から生み出された日本の先進技術、試行錯誤を繰り返して構築された制度設計、問題解決に奔走する中で身に付いたスキルを持つ日本人の派遣が、資金援助以上に中国にとっては重要といえるでしょう。中国内陸部の砂漠を緑化するプロジェクトの時には、日本政府がODA予算から、いくつかの民間ボランティア団体にNGO事業補助金を交付して植林など緑化事業を始め、現地政府や住民と話し合いを重ねながら、日本からは学生やシルバー世代まで25名の「植林協力隊」が駆けつけて、プロジェクトを成し遂げ、日中協力の良い先行事例となりました。このような、資金援助以外のソフト面の日中協力を進めていくことが、今後の日中の信頼関係を築く礎になると考えています。
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