コラム
2009年06月22日

15歳の壁

小林 雅史

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6月18日の新聞報道によれば、臓器移植法改正案が衆議院で成立し、今後参議院で審議されるとのことであり、参議院でも可決されれば、今後臓器提供が15歳未満でも可能になるとのことである。

現在の「臓器の移植に関する法律」第6条第1項では、「医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。」としているが、衆議院で成立したいわゆる改正A案では、「医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。一.死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき。 二.死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき。」と改正している。

すなわち、死亡した者が生前に臓器提供の意思表示を書面で行っている場合で遺族が拒まないという現行のケースに加え、生前に臓器提供の意思表示を書面で行っていなくても、臓器提供の意思がないことを表示していなければ、遺族の書面による承諾により、臓器移植が認められることとなる。

現在15歳未満の臓器移植が行われていないのは、厚生労働省の「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)」で、「臓器提供に係る意思表示の有効性について、年齢等により画一的に判断することは難しいと考えるが、民法上の遺言可能年齢等を参考として、法の運用に当たっては、15歳以上の者の意思表示を有効なものとして取り扱うこと」とされていることによるものであり、臓器移植法そのものの改正により、生前の本人の意思表示がなくても、遺族の書面による承諾があれば臓器移植を可能としたものである。

同ガイドラインでは、「知的障害者等の意思表示については、一律にその意思表示を有効と取り扱わない運用は適当ではないが、これらの者の意思表示の取扱いについては、今後さらに検討すべきものであることから、主治医等が家族等に対して病状や治療方針の説明を行う中で、患者が知的障害者等であることが判明した場合においては、当面、法に基づく脳死判定は見合わせること」とされていたが、法案が成立すれば、15歳未満の者に加え、こうした意思表示ができない知的障害者等についても、遺族の書面による承諾を前提に臓器移植が可能となろう。

衆議院で成立した臓器移植法改正案では、経過措置中、(検討)として、「政府は、虐待を受けた児童が死亡した場合に当該児童から臓器(臓器の移植に関する法律第五条に規定する臓器(筆者注:心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球)をいう。)が提供されることのないよう、移植医療に係る業務に従事する者がその業務に係る児童について虐待が行われた疑いがあるかどうかを確認し、及びその疑いがある場合に適切に対応するための方策に関し検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされており、こうしたケースについての検討が望まれる。

なお、生命保険会社の医療保険については、臓器移植に対し手術給付金が支払われたり、臓器移植を保障する特約が付加されていれば特約保険金が支払われるケースもある。

15歳未満の未成年者や意思無能力者の保護等も含め、今後の参議院での法案審議状況等について、引き続き注視していきたい。
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