コラム
2009年03月02日

定額給付金はそんなに悪いのか

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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定額給付金の評判が非常に悪い。私自身は、昨年8月にこの政策が決まった時から支給されるのを心待ちにしているのだが、各種世論調査によれば、定額給付金に反対している人の方が賛成している人よりも圧倒的に多いということだ。

第一の批判は、定額給付金はばらまき政策で好ましくないというものだ。しかし、そもそも景気対策というのは、多少なりとも「ばらまき」の性質を持っているものではないか。景気悪化で急速に落ち込んでいる需要を、お金をばらまかずに浮揚させることは至難のわざだろう。

定額給付金は景気浮揚効果が小さいという批判も多い。支給されたお金のかなりの部分は消費されずに貯蓄にまわってしまうというものだ。私自身、マスコミからの取材に対してはきまって「定額給付金によるGDPの押し上げ効果は限定的」と答えてきた。しかし、GDPを押し上げないからといって、必ずしも悪い政策というわけではない。

確かにGDPの押し上げだけを考えれば、公共事業のほうが効果的だ。定額給付金(あるいは減税)を1兆円実施してもGDPはその何割かしか増えないが、公共事業を1兆円追加すればGDPは少なくとも1兆円は増えることになる。公共事業(公的固定資本形成)はGDPの需要項目のひとつだからだ。しかし、道路や橋などの施設は作ったらそれでおしまいではない。それがあまり役に立たないものだとしても、維持、修理などにかかるコストは後の世代が負担しなければならないのだ。

公共事業の追加によるメリットを受けられるのが、建設関連を中心としたごく一部の人に限られることも問題だ。その点、定額給付金は一人当たりの額は大きくないが、基本的に全ての国民がその恩恵を享受することができる。GDPはそれほど増えなくても、少なくとも支給された分だけ家計の所得はほぼ均等に増えるのだ。それを消費に使うか貯蓄にまわすのかは個人が自由に決めることができる。

景気対策として、従来型の公共事業ではなく、中長期的に高い成長が期待できる分野に投資を行うべきだという意見も多い。しかし、そのような投資は本来、景気対策のための補正予算ではなく、本予算で行うのが筋だ。また、政府が本当に将来の成長分野を正確に予測することができるのかという疑問もある。国民が望まないところに無駄にお金が使われてしまう可能性も否定できない。定額給付金を、個人が欲しいと思った物やサービスに使えば、間接的に成長分野に投資していることにもつながる。

もちろん、足もとの急激な景気悪化を、定額給付金や減税だけで食い止められるとは思わないが、定額給付金に対する評価が正しく行われていないのは残念なことだ。定額給付金の評判がここまで悪くなったのは、政策を決めてから実施するまでに時間がかかりすぎたことも一因だろう。この間に行われた、高所得者や政治家が給付金を受け取るべきかどうかといった議論はあまり生産的なものとは言えなかった。定額給付金を速やかに支給していれば、今頃は個人消費の悪化をある程度緩和する役割を果たしていたかもしれないのに、と今さらながら思うのである。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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