コラム
2008年02月04日

複合店舗の増加と業態のイノベーション

小本 恵照

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1.増加する複合店舗

近年、既存の複数の業態を同一店舗に取り込んだ複合店舗が増加している。大手小売業イオンは昨年10月にスーパー内に銀行を開設した。AVソフトレンタル店TSUTAYAは、書籍販売、コミックのレンタル、カフェの併設などを進めるとともに、ファミリーマートとの複合店を大阪に出店している。2008年に入ってからの動きを見ると、日本トイザらスが、現在4店舗開設している玩具専門店とマタニティー・ベビー専門店を併設した店舗を2010年までに30店規模に増やすとのことである(日経流通新聞2008年1月9日)。イトーヨーカ堂は、2008年3月から、自社スーパー内に高齢者向けのサービスや商品を総合的に扱う専門店「健康・快適あんしんサポートショップ」を開設し、毎年10店舗出店すると表明している(日本経済新聞2008年1月29日)。また、丸善はam/pmと提携し大学構内にコンビニと書店の複合店を今年4月に出店する(日経流通新聞2008年2月1日)。このように、複合店の開発を進める動きは依然として活発なようである。

2.業態の成熟化が複合化の要因か

複合店舗が増加しているのはなぜなのだろうか。少子高齢化に伴う消費者行動の変化を指摘する意見がある。つまり、消費に占める高齢者世帯の割合が高まる中で、複合店舗には若者から高齢者まで客層の多様化につなげやすいメリットがあるという理由である(日本経済新聞2007年9月3日)。しかし、筆者には、多様な客層を取り込むためには、必ずしも複合店にする必要はないように思われる。

複合店が増えている本当の理由は、消費者行動の変化への対応というだけではなく、むしろ売上が伸びない中で、供給サイドが需要創出に向けて模索を続けている結果ではないだろうか。一般に、業態が若く需要も拡大している時には複合化を志向しない。提供する財やサービスに対する需要が超過している状況では、それらの財やサービスを提供する店舗を早期に大量に出店することが事業拡大の基本戦略となるからである。しかし、競合他社の出店も増え市場が飽和すると、何らかの差別化戦略が必要となる。その手段の一つが、従来の財やサービスを提供するという基本的路線は維持した上で、何らかの付加的なものを追加するという複合店戦略であると言える。実際、複合化を積極的に進めている、AVレンタル店、コンビニエンス・ストア、総合スーパー、フィットネス施設などはいずれも成熟化した業態と言えるだろう。

3.期待される業態のイノベーション

複合店増加の要因が当該業態の成熟化にあると捉えるならば、複合店の増加が目立っているのは有望な新業態の開発が遅れていることの表れとみることができる。インターネットを利用したeコマースは順調な拡大が続いているが、店舗を利用した業態革新は停滞している。総合スーパー、コンビニエンス・ストア、AVレンタル、フィットネス施設、中古本販売などは、いずれも新業態としてイノベーションを起こしてきた。しかし、現在は、こうした勢いのある業態が見当たらないのである。経済の成長がイノベーションにあることを踏まえると、小売・サービス業界においても消費者の潜在需要を顕在化するような有望な新業態の創出と成長が起こることを期待したい。

(2008年02月04日「エコノミストの眼」)

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