2008年01月18日

「日本経済の進路と戦略」(1月17日諮問会議)~困難になる増税なしでの11年度の黒字化

篠原 哲

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■見出し

・最善のシナリオでも、増税なしでは11年度の黒字化は実現せず
・長期金利と名目成長率の関係
・求められる「歳出・歳入一体改革」の継続

■introduction

1月17日の経済財政諮問会議において、日本経済・財政の中期的な指針である「日本経済の進路と戦略」が了承された。「進路と戦略」は日本が目指すべき経済社会の姿と、それを実現するための経済財政運営の中期的な方針を示すもので、毎年1月に閣議決定される。
特に注目が集まる財政の先行きについては、増税を実施しない場合における、2011年度までの「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の姿を、(1)14.3兆円の歳出削減を行ったケースと、(2)11.4兆円の歳出削減を行ったケースについて、それぞれ経済の高成長が実現した場合(成長シナリオ)と、低成長に留まった場合(リスクシナリオ)に分けた、合計4通りのシナリオに基づいて試算している。
上記の4ケースのなかで、最善のシナリオと位置づけられる「成長シナリオ・歳出削減14.3兆円」では、2011年度のプライマリーバランスはGDP比で▲0.1%の赤字(金額では約▲0.7兆円の赤字)となり、高い成長と歳出削減の徹底が実現しても、当面の財政再建の目標である「2011年度の国と地方のプライマリーバランスの黒字化」は達成できない姿が示された。また、経済が低迷し、歳出削減も最低限の規模に留まる「リスクシナリオ・歳出削減11.4兆円」のケースでは、2011年度の赤字は、GDP比で▲1.0%(金額では約▲5.5兆円程度)に拡大する。
昨年の「進路と戦略」では、高成長が実現し、14.3兆円の歳出削減が徹底されれば、増税を実施しなくても、2011年度にはGDP比で0.2%の黒字が実現するとしていたが、今回の試算では、名目成長率や税収の伸びが、昨年の試算よりも下方修正されたこともあり、「増税なしでの11年度の黒字化」の実現が、難しいことを示唆する内容になっている。
2006年に閣議決定された「骨太の方針2006」では、今後の財政再建の指針となる「歳出・歳入一体改革」が盛り込まれており、そこでは、2011年度のプライマリーバランスの黒字化を実現するために、2006年度から2011年度にかけて、合計11.4兆円~14.3兆円の歳出削減と、2~5兆円分の増税が必要としている。
「歳出・歳入一体改革」では、増税の前に、まずは歳出削減を徹底する方針が示されていることもあり、従来まで、大規模な増税に関する議論は先送りされてきた。しかし、今回の「進路と戦略」において、高成長が実現し、14.3兆円の歳出削減が行われても、増税なしでは、2011年度の黒字化が難しいという試算結果が示されたことから、今後は、消費税に代表される増税の議論が、本格化してくることが予想される。

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