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- 生活リスクの認知からみた社会格差
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1.
「リスク社会」「格差社会」といった「○○社会論」が注目されている。これらが話題になり始めたのは1990年代前半で、内閣府の調査では、ちょうどその頃から人々の生活についての不安も高まり始めている。
2.
「リスク社会」や「格差社会」は社会学、経済学からの「現代社会の綻び」に対するアプローチであると言えるだろうが、どちらにおいても、その綻びの渦中にいる生活者個々人の不安・危機感といった心理をうまく捉えているとは言い難い。社会学においては社会システムに対する定性的な記述、経済学においては経済的な側面についての記述が中心となっている。
3.
個人は、身近な家族の問題や家計、健康から地球環境問題まで、きわめて多岐にわたるリスクに直面している。「個人のリスク・マネジメントがより問われる時代」には、個人にとっての多様なリスクの量や個人が持つリスクへの対応資源による格差を考える必要がある。
4.
そこで、個人の生活にかかわるリスクを様々な角度から捉えることを目的として全国の28000人を対象とした「生活リスク総合調査」を行った結果を用いて、生活者が直面しているリスクの量を「起こりうる度合い」と起こった場合の「深刻さ」で算出し、格差の状況を概観してみた。
5.
この結果、個人が認識するリスクとしては、環境リスクが最も大きく、家計、事故・犯罪、健康などがそれに次ぐことがわかった。リスクを認識する量は多くの領域で男性よりも女性が多く、中高年層より若年層の方が多い。職業別では、非正規雇用層は家計や人間関係を含むネットワークなどのリスクをより認知している傾向がある。地域的には大きな違いはないものの、本州中央部の都県で相対的にリスク認知の量が多い傾向がある。
6.
個人が特定のリスクを強く認識するのかどうかを確認するために、領域別リスク認識量を用いて類型化を行ったところ、環境リスクを認識する1類型が確認されただけで、他は、どのリスクも強く認識する類型から、その逆の類型までの4類型となった。経済的な豊かさを志向する層は、どのリスクも強く認識する類型の該当者が多い。
7.
リスク認知の量をもとに不平等指数であるジニ係数を算出したところ、今回対象としたリスク領域の中では、就業と家族についてのリスクで格差が大きく、40 代、50代での格差が特に大きい。また家計リスクの格差は若年層においては実際の所得格差より大きいことがうかがえた。
8.
リスク認知とリスク格差をあわせて分析したところ、リスクの領域で異なるが、認知度合いが大きい属性と格差が大きい属性とに分かれる傾向が見出せた。
9.
リスク認知の理由や、リスク格差の理由については、各リスク領域、さらには個々のリスク・カテゴリーにまで踏み込んだ分析が必要であり、個々の分析を終えた上で、再度、本稿のような総合的な分析を行っていく予定である。
(2007年12月26日「ニッセイ基礎研所報」)
栗林 敦子
栗林 敦子のレポート
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