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コラム
2007年12月04日
昨今、日本のマスコミは北京五輪の開催に歓迎ムード一色であるが、同時に、連日報道されている中国の食品安全問題は、少なからず消費者の不安を煽り、日本に緊張感が走っている。ある友人が中国旅行後、持ち帰ったお土産の菓子を同僚に配ったところ、皆同僚達は友人には内緒で、ほとんど食べずに捨ててしまった。現在中国食品は、まるで「毒入り」かのごとく取り扱われているような印象がある。
中国の食品安全については、かなり以前から問題となっており、香港のマスコミは連日のように関連ニュースを報道していた。例えば、中華料理で有名な上海ガニ(上海に近い、江蘇省陽澄湖の特産品であり、正式名称は、「大閘蟹」(だーざーしぇ))について、香港の新聞は、江蘇省陽澄湖では、最も豊作の年でも、20万トンほどしか獲れないにも関わらず、江蘇省陽澄湖産と名乗っている上海ガニは香港市場での毎年の流通量だけでも百万トン以上に上っている、と伝えた。また、中国全土に江蘇省陽澄湖産として上海ガニが数百万トン以上出荷されているため、ほとんどが偽物であると判断できた。この新聞記者は、その謎を追及するため、更なる調査を行ったところ、驚くべき事がわかった。現在、上海ガニは、ほとんど江蘇省陽澄湖以外の地区で養殖されているが、養殖時、ホルモン、抗生物質(現在使用禁止されたもの)を使うと、死亡率が低下し、成長が早まる、という事実は5,6年前には判明していたのである。
今やっと、中国の食品安全問題が国際問題として扱われるようになり、EU、米国、日本などの先進国が問題を深刻に受け止め、中国政府に改善策を求めている。実際、中国の食品は多くの問題を抱えているのが現実である。高濃度の農薬を使用した野菜、薬品による米の洗浄、ミルクによる児童の中毒事件など、様々な事件がスクープとして暴露され、中国国民の間にも緊張感が走った。国民の怒りは、中国政府をも動かさざるを得ない状況にした。
中国には、「以偏概全」という熟語があり、「一面だけ見て全部がそうだとする、または、一部で全体を評価する」という意味である。中国の食品安全問題は確かに深刻であるが、「以偏概全」的な見方はあまり科学的な観点とはいえない。また、日本も最近、食品に関する不祥事が急増しており、それは、今に始まったことではない。すでに数年前、または数十年前に発生したケースもある。もし、それらの不祥事が引き続きメディアで大きく取り上げられれば、日本で生産する全ての食品に消費者は不信感を覚え、「以偏概全」の観念に落ち入ってしまう可能性がある。
一方で、中国における食品安全に日々挑戦する日本の商社、食品生産メーカーもある。彼らは中国の食品安全に貢献しようと日々努力し、日本の消費者に中国の大部分の食品が安全であるとの呼び掛けを行っており、涙ぐましい努力をしているようである。
来年の8月にいよいよ迫ってきた北京五輪の開催、中国政府は、いかに食品安全対策を国際社会にアピールしていくか、現在必死に取り組みを続けている。その中で、我々がすべきことは、中国の食品問題に過剰反応せず、こうした取り組みを冷静に見守って、4年に一度の盛大なイベントを迎えることではないだろうか。
中国の食品安全については、かなり以前から問題となっており、香港のマスコミは連日のように関連ニュースを報道していた。例えば、中華料理で有名な上海ガニ(上海に近い、江蘇省陽澄湖の特産品であり、正式名称は、「大閘蟹」(だーざーしぇ))について、香港の新聞は、江蘇省陽澄湖では、最も豊作の年でも、20万トンほどしか獲れないにも関わらず、江蘇省陽澄湖産と名乗っている上海ガニは香港市場での毎年の流通量だけでも百万トン以上に上っている、と伝えた。また、中国全土に江蘇省陽澄湖産として上海ガニが数百万トン以上出荷されているため、ほとんどが偽物であると判断できた。この新聞記者は、その謎を追及するため、更なる調査を行ったところ、驚くべき事がわかった。現在、上海ガニは、ほとんど江蘇省陽澄湖以外の地区で養殖されているが、養殖時、ホルモン、抗生物質(現在使用禁止されたもの)を使うと、死亡率が低下し、成長が早まる、という事実は5,6年前には判明していたのである。
今やっと、中国の食品安全問題が国際問題として扱われるようになり、EU、米国、日本などの先進国が問題を深刻に受け止め、中国政府に改善策を求めている。実際、中国の食品は多くの問題を抱えているのが現実である。高濃度の農薬を使用した野菜、薬品による米の洗浄、ミルクによる児童の中毒事件など、様々な事件がスクープとして暴露され、中国国民の間にも緊張感が走った。国民の怒りは、中国政府をも動かさざるを得ない状況にした。
中国には、「以偏概全」という熟語があり、「一面だけ見て全部がそうだとする、または、一部で全体を評価する」という意味である。中国の食品安全問題は確かに深刻であるが、「以偏概全」的な見方はあまり科学的な観点とはいえない。また、日本も最近、食品に関する不祥事が急増しており、それは、今に始まったことではない。すでに数年前、または数十年前に発生したケースもある。もし、それらの不祥事が引き続きメディアで大きく取り上げられれば、日本で生産する全ての食品に消費者は不信感を覚え、「以偏概全」の観念に落ち入ってしまう可能性がある。
一方で、中国における食品安全に日々挑戦する日本の商社、食品生産メーカーもある。彼らは中国の食品安全に貢献しようと日々努力し、日本の消費者に中国の大部分の食品が安全であるとの呼び掛けを行っており、涙ぐましい努力をしているようである。
来年の8月にいよいよ迫ってきた北京五輪の開催、中国政府は、いかに食品安全対策を国際社会にアピールしていくか、現在必死に取り組みを続けている。その中で、我々がすべきことは、中国の食品問題に過剰反応せず、こうした取り組みを冷静に見守って、4年に一度の盛大なイベントを迎えることではないだろうか。
(2007年12月04日「研究員の眼」)
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