2007年11月09日

11月ECB政策理事会~インフレ期待の変化を注視

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■見出し

・総裁コメントのポイント~原油高の二次的影響を警戒
・前回理事会後の推移~市場は小康状態、成長鈍化、物価は上振れ
・ECBの様子見は続く見込み

■introduction

8日に開催された欧州中央銀行(以下、ECB)の11月の政策理事会の決定は、大方の予想どおり、4%での政策金利の据え置きであった。
理事会後の記者会見におけるトリシェ総裁のコメントと質疑応答の注目点は以下のとおりであり、引き続き金融混乱の景気への影響を注視する姿勢とともに、足もとの物価の上振れをもたらしている原油・食品価格の上昇が中期的なインフレ期待に及ぼす影響、賃金や価格転嫁を通じた二次的影響を警戒する姿勢を前面に打ち出した。
(1) 経済のファンダメンタルズは「依然として健全」であり、「中期見通しは良好」で、「2008年も潜在成長率並みの成長が続くというメインシナリオ」を維持しながら、引き続き景気のリスクは「下振れ」とした。下振れリスクとしては、「金融混乱がマインドや資金調達環境に及ぼす影響」に続いて「原油、商品価格の一層の上昇」を挙げた。
(2) 経済分析では、「前回理事会後に公表された生産や小売統計は7~9月期も景気拡大が続いていることを示しており」、「サーベイ調査には、企業と消費者の信頼感に金融市場の動揺の影響が及んでいることが表れているが」が、「(信頼感指数等の水準は)長期平均は上回っており、今年下期も景気の拡大が続いている」という判断を維持した。
(3) 「金融市場のボラタイルな動きとリスクの再評価の動きは続いており、不確実性は高く」、「金融政策の決定にあたっては、追加的な情報を収集し、徹底的な分析を行う必要がある」として、金融市場の調整とその影響を引き続き注意深く見守る姿勢を示した。
(4) 物価のリスクは「上振れ」とし、前回から用いられている「物価の上振れリスクを抑制する用意がある(ready to counter upside risk to price stability)」という表現で利上げバイアスを維持した。消費者物価は、10月に前年同月比2.6%まで上振れたが、「原油価格の高騰と食品価格の上昇で増幅されており」、「2008年に再び鈍化するまでの数ヶ月は2%を大きく上回る状況が続く」とした。物価の上振れ傾向が、「中長期的なインフレ期待」や「二次的影響」をもたらすことへの警戒を打ち出し、「名目賃金の物価スライド制は削減、究極的には廃止すべき」とした。
(5) 物価の上振れ要因としては、前回同様、原油高・食品価格上昇、管理価格や間接税の引き上げ、予想を上回る賃金の上昇と競争が低い分野での価格転嫁を挙げた。
(6) マネーと信用の高い伸びが、「中長期的な物価上振れリスク」という判断も維持された。流動性指標は、「イールド・カーブのフラット化や金融市場の動揺などの一時的要因や特殊要因によって過大評価になっている可能性がある」ことも示唆され、「金融市場のボラティリティーの高まりに対する民間部門の反応の全貌を掴む」ためにも、「基調と短期的な変化の両方を見極めることが重要」とした。
(7) 7日に対ドルで最高値を更新したユーロ相場に関しては、会見冒頭のコメントでの言及はなかったが、質疑応答の中で、「無秩序な為替相場の動き」、「荒々しい動き(brutal)」は「経済成長に好ましくない」、「強いドルは米国の利益」といったスタンスが示された。

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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