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コラム
2007年10月22日
金融資産、実物資産と負債に関する調査結果に基づいて、全世帯の総資産残高に占める株式保有残高の割合を見ると、日本の値は2.6%でしかない。しかし、同様のデータが利用できる先進8カ国の中では、この割合は最も高いスウェーデンでも6.9%に過ぎない。総資産残高は金融資産残高と実物資産残高の合計額のことであり、総資産に占める株式の割合とは、総資産残高と株式保有残高のいずれについても、株式を保有していない世帯も集計したうえで算出された結果である。
そこで、総資産に占める株式の割合に替えて、株式を保有している世帯の割合について比較した場合でも、8カ国の実績値は、イタリアの7.2%からスウェーデンの35%の間にとどまっており、日本の値は17.6%となっている。
このように、総資産に占める株式の割合も、株式を保有している世帯の割合も、日本の値は高くはないが、それは8カ国すべてに当てはまっている。
第2に、時価が変動するリスク性資産の総資産に占める割合に基づいて、資産選択が「安全志向」であるかどうかを論ずるのであれば、株式だけではなく、住宅・土地などもリスク性資産に含めたうえで議論すべきだからである。家計が保有する資産に関しては、どこの国でも実物資産の方が金融資産よりもはるかに大きいのに、実物資産を無視してよいという理由は見当たらない。
そこで、総資産に占める株式の割合に替えて、株式を保有している世帯の割合について比較した場合でも、8カ国の実績値は、イタリアの7.2%からスウェーデンの35%の間にとどまっており、日本の値は17.6%となっている。
このように、総資産に占める株式の割合も、株式を保有している世帯の割合も、日本の値は高くはないが、それは8カ国すべてに当てはまっている。
第2に、時価が変動するリスク性資産の総資産に占める割合に基づいて、資産選択が「安全志向」であるかどうかを論ずるのであれば、株式だけではなく、住宅・土地などもリスク性資産に含めたうえで議論すべきだからである。家計が保有する資産に関しては、どこの国でも実物資産の方が金融資産よりもはるかに大きいのに、実物資産を無視してよいという理由は見当たらない。
その実物資産の中心は持家であり、持家率、すなわち、持家を保有している世帯の割合は、すべての国において、1/2を上回っている2。全世帯に対する保有世帯の割合、保有金額の総資産残高に占める割合に関しても、持家の数字は株式の数字を大きく上回っており、消費に対する資産効果が大きいのは株式よりも持家の方だとする見方も頷けるところである。
各国の家計が保有する資産と負債に関しては、他にも共通点が見られる。
例えば、負債に着目すると、11カ国中の7カ国において、総資産に対する割合は11~15%という範囲にとどまっている。この割合が際立って低いのは、4%のイタリアであり、2番目に低い日本の11%の半分にも満たない水準である。逆に、40%のデンマーク、31%のスウェーデンとノルウェーにおいては、他の国々の2倍を超える水準となっている。負債と金融資産の大小関係についても、この3カ国においてのみ、負債が金融資産を上回っている。逆に言えば、日本を含む残りの8カ国では、金融資産が負債を上回り、先に見たように、金融資産を実物資産が上回っている。
各国の家計が保有する資産と負債に関しては、他にも共通点が見られる。
例えば、負債に着目すると、11カ国中の7カ国において、総資産に対する割合は11~15%という範囲にとどまっている。この割合が際立って低いのは、4%のイタリアであり、2番目に低い日本の11%の半分にも満たない水準である。逆に、40%のデンマーク、31%のスウェーデンとノルウェーにおいては、他の国々の2倍を超える水準となっている。負債と金融資産の大小関係についても、この3カ国においてのみ、負債が金融資産を上回っている。逆に言えば、日本を含む残りの8カ国では、金融資産が負債を上回り、先に見たように、金融資産を実物資産が上回っている。
もっとも、総資産額から負債額を控除した正味資産額の可処分所得に対する倍率について見ると、最高のオーストラリア(9.8)は最低のスウェーデン(3.1)の3倍以上の大きさとなっている。その中で、日本の7.3倍という水準は、上から5番目の大きさに位置し、他国と比べて特段大きいとも、小さいとも言えない。
このように、家計のバランスシートに関して、総資産に占めるリスク性資産の割合、持家率、金融資産・実物資産・負債の相互関係、正味資産の所得に対する倍率のいずれについても、国際的に共通する傾向や標準的な水準から逸脱していないことが、”ニッポン”の特徴とさえ言えるのである。
かつての「日本異質論」に代表されるように、日本は経済的な常識の通用しない国として激しいバッシングに遭った時代もあるが、そのような言われなき批判を外国から受けることは今では少なくなっている。むしろ、「過度に安全志向の日本」というイメージのように、自らに対して抱く虚像には未だに縛られていると言ったら、言い過ぎだろうか。
1 1世帯当たりの資産と負債に関する11カ国の詳細な比較については、拙稿「国際比較で見る1世帯当たりの資産と負債-11カ国の世帯調査統計に基づいて-11カ国の世帯調査統計に基づいて-」(http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0706.pdf)を参照されたい。
2 スウェーデンに関しては、入居権のみ売買可能な集合住宅も広義の持家とみなした場合。
このように、家計のバランスシートに関して、総資産に占めるリスク性資産の割合、持家率、金融資産・実物資産・負債の相互関係、正味資産の所得に対する倍率のいずれについても、国際的に共通する傾向や標準的な水準から逸脱していないことが、”ニッポン”の特徴とさえ言えるのである。
かつての「日本異質論」に代表されるように、日本は経済的な常識の通用しない国として激しいバッシングに遭った時代もあるが、そのような言われなき批判を外国から受けることは今では少なくなっている。むしろ、「過度に安全志向の日本」というイメージのように、自らに対して抱く虚像には未だに縛られていると言ったら、言い過ぎだろうか。
1 1世帯当たりの資産と負債に関する11カ国の詳細な比較については、拙稿「国際比較で見る1世帯当たりの資産と負債-11カ国の世帯調査統計に基づいて-11カ国の世帯調査統計に基づいて-」(http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0706.pdf)を参照されたい。
2 スウェーデンに関しては、入居権のみ売買可能な集合住宅も広義の持家とみなした場合。
(2007年10月22日「エコノミストの眼」)
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