コラム
2007年08月27日

成熟社会の多様な文化を育み、都市の活力に貢献する公園へ

池邊 このみ

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人口減少と少子高齢化が世界でも経験しえない速度で進んでいる日本。この現象は、公園をとりまく社会情勢として、きわめて深刻な問題である。都市公園法が施行されてから、この50年、公園は高度成長期に伴う都市化の中で必須の社会インフラとして建設されてきた。開発により失われた多くの自然地と引き換えに、ウサギ小屋といわれる狭い住居に住む都市の住民が、公園で子育てをする風景は、「幸せな家族像」の象徴でもあり、欧米の水準に追いつくことを目標に一人当たりの公園緑地面積が都市の豊かさを計る指標にもなってきた。

しかしながら、近年、公園のもつ相対的な価値が下がっているように感じる。その要因は何であろうか。パソコンの普及や多様なアミューズメント施設が、公園にくるはずの親子連れや高齢者の時間までも奪っている。一方、いわゆる自然派の人間は、近郊の緑地や里山にその場を求めている。公園の魅力の低下が、公園が足りない、公園を作って欲しいという世論を生まなくなっているのだ。魅力の乏しさゆえに利用者の少ない公園は、デザインが画一的で、植栽も単調である。年月を重ねて立派に育っただけの植栽だけがかろうじてその機能を保っている公園も数多い。公園は、道路と同じように社会インフラとして大量生産されたことで、それぞれの公園で育つはずの固有で多様な文化的活動を育むことができなかったのだ。

“シルク・ドゥ・ソレイユ”という世界的に有名なカナダのサーカス団がある。この団体の日本公演には、サルティンバンコ、アレグリア等があるが、4回の来日で延べ318万人を動員する集客力は、その魅力を物語るに十分だ。“シルク・ドゥ・ソレイユ”は、子供が主たる対象であったサーカスという斜陽産業を、全世代を通じて楽しめるビックなエンターテイメント産業に変えた。また、自然保護団体からクレームのあった動物芸や空中ブランコなどの危険な芸をやめることで、コストを下げる一方、美しい衣装や独自のメイク、バレーなどの要素を取り入れることで、芸術的な価値を高めた。不必要なものや阻害要因を取り除くことでコストを削減し、高く評価されるものに投資することで、多くのファンを魅了しているのだ。

スポーツで地方都市の活性化が図られた事例としては、サッカーファンによく知られているアルビレックス新潟の事例がある。無料招待券作戦で、スタンドを常に満席にすることで熱気を高め、緻密なサポーターサービスでファン層を確実なものにし、地方中堅都市では難しいといわれたサッカー産業を育て、見事に地域活性化に貢献した。

指定管理者制度が導入され、ここ数年で成功する事例と失敗する事例が、大きく公園の運命を変えつつあるなかで、無用な施設や規制は取り除き、新たな魅力を付加する施設や活動に投資する “シルク・ドゥ・ソレイユ”方式や、集客ソフトを地域活性化に繋げたアルビレックス新潟の事例は、公園運営のあり方に示唆を与えるものだ。欧米の広場のように公園が街の賑わいの拠点となり、都市の文化の拠点となるよう公園の華麗なる転進を期待したい。

(2007年08月27日「研究員の眼」)

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