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1.
英国のように公的年金に最低保障水準を期待する国(ベバレッジ型)とドイツのように退職前所得の一定割合を期待する国(ビスマルク型)とではその考え方に相違が見られるものの、両国ともに将来的には前例のない高齢化社会を迎えるという共通した境遇にある中、改めて公的年金をも含めた老齢所得の確保に対して国家的レベルでの強い関心が寄せられている。こうした状況の下で、両国ともに従前の公的年金の補完を行うために私的年金の強化とこれに対する税制支援等積極的な施策が展開されるとともに、これを担う生保業界等の意欲的な姿勢がうかがわれる。
2.
まず、英国について見ると、もともと職域年金(企業年金)など私的年金が発展してきたこともあり、老齢所得における私的年金への期待は大きいものがあった。だが、一方で、既存制度の恩恵を受けることができなかった低中所得層が依然として多数存在することから、とりわけ90年代末以降これらの者を中心とした老齢所得促進策が積極的に打ち出されてきた。具体的にはステークホルダー年金の導入やこれに対する税制優遇策等であるが、これでもなお老齢所得の積立不足が顕著なため、いっそうの促進策導入の必要性が高まってきた。その具体化のひとつが2006年4月実施の年金税制優遇措置のいっそうの強化(事実上青天井の所得控除)であり、もう一方が同年5月に公表の政府白書で提案された「個人勘定」導入構想である。後者はいわゆる個人貯蓄勘定で、既存制度の恩恵に浴さない低中所得層(約1,000万人強)向けの既存の公的年金制度の上乗せとしての強制加入貯蓄で、企業によるマッチング拠出が想定されている。2012年に制度発足予定であり、政府、生保業界を中心とした関連業界等などによる具体的な論議が今後展開される予定である。
3.
一方、ドイツについて見ると、もともと老齢所得における公的年金への依存度が高いこともあり、私的年金への注目は90年代以降に増加することとなった。英国以上に高齢化の進行が深刻であることから、とりわけ今世紀に入ってから老齢所得における公私の役割論議が一段と高まり、これを受けて対策が講じられることになった。具体的には、公的年金水準の引下げ(所得代替率を現在の70%程度から最終的に67%程度に引下げる)と、これを補完するための私的年金の強化である。私的年金強化の第一は2002年実施のリースター年金の導入である。これは保険料に対して政府の助成金が支給されるものであり、税制優遇策(所得控除)と比して有利な効果を享受することができる。また、2005年より段階的に保険料につき拠出時非課税・積立期間非課税・給付時課税(EET)への移行が実施された。さらに、2005年より主として自営業者向けの個人年金であるリュールップ年金が導入されるなど、私的年金強化に意欲的な姿勢が見られる。
4.
英独の動きを総合して見られる特徴は、(1)高齢化の進展に対応して私的年金の役割を高めること、(2)これを促進するために税制優遇策を強化すること、(3)税制優遇策の恩恵に与れない低所得層に対しては政府の助成(補助金支給)や政府の関与(強制加入等)によって老後に向けた貯蓄行動を支えることなどであり、同様の事情に置かれた他の先進諸国において老齢所得における公私の役割を考える際の参考事例になりうるものと考えられる。
(2006年12月25日「ニッセイ基礎研所報」)
小松原 章

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