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事業主が負担する年金保険料の転嫁と労働市場への影響
1.
本稿では、事業主が負担する年金保険料が、税と同じように国民負担となり、労働市場に悪影響を与えるかどうかを検証する。
2.
理論的には、雇用者にとって、年金保険料と同額の賃金の限界効用と年金給付の限界効用が等しく、それを雇用者が認識していれば、事業主が負担する保険料分だけ賃金を下げられる(転嫁できる)ので、事業主負担にはならない。したがって、企業の労働コストは上昇せず、均衡雇用量も年金がない場合から変化しない。
3.
しかし、実際には、(1)保険料を支払う側が全て負担すべきという通念の効果(フレーミング効果)や、(2)年金保険料と年金給付が数理的に等価であっても、保険料分の賃金とそれと等価な年金給付の限界効用が不均等であり、保険料分だけ賃金を下げられることに雇用者が納得しないこと、により、労働市場に影響があると考えられる。そこでこの2点を検証した。
4.
まず、一般的に事業主への課税と雇用者への補助金支給が同時に実施される場合のフレーミング効果を取引実験で検証すると、市場が十分に競争的であれば必ずしも明白なフレーミング効果は存在していなかった。
5.
他方、アンケート調査によると、事業主が年金保険料を負担し、それに見合っただけ年金支給額が増える場合でも、雇用者は賃金の引き下げに完全には納得していなかった。納得するかどうかは、リスク回避度や主観的余命あるいは政府への信頼に関連していた。
6.
これらの検証から、(1)年金制度や負担と給付の関係について、加入者1人ずつの状況に対応した情報提供、(2)特に余命についての正確な情報提供、(3)年金制度や政府への信頼あるいは将来、年金が受給できるという信頼を改善する施策、が、年金保険料の転嫁を進めて経済厚生を高め、国際的な競争力を回復する上で有効である、と考えられる。
7.
また、積立方式の下で、保険料と年金額が数理的に等価であっても、将来の年金の価値をどう認識するかは、余命やリスク回避度など主観的要因に影響されるために、雇用者に保険料を転嫁できるとは限らない。その結果、均衡点での労働供給量が抑えられる。他方、賃金引き下げを通じて雇用者に保険料負担を転嫁しやすい点では、給付建てより拠出建ての年金が優れている可能性がある。毎年、勘定残高が増えるので、雇用者は事業主が拠出した保険料をそのまま実感でき、将来の年金の限界効用と同じ限界効用をもたらす現在の賃金に換算する必要がないからである。
(2006年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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