2006年01月26日

ケアマネジメントにおける業務プロセスの測定と評価

村田 久

阿部 崇

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1.
2006年4月に予定される介護保険制度改正では、制度の要である介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)についても「質の向上」の観点から様々なルール変更が行われる。同時期に行われる介護報酬(介護サービスの単価)の改定では、ケアマネジャーが担当するケアマネジメントの対価(居宅介護支援費)の引き上げが予定される。もっとも、単純な居宅介護支援費の引き上げは、一時的な経営・待遇改善に寄与するとしても、早晩「高い評価(報酬)を得ないとケアマネジメントの質を確保できない」という議論が繰り返されるのみである。
2.
質の高いケアマネジメントを確保するためには、それを担うケアマネジャーの技術力の向上とともに、ケアマネジメント業務の適正な評価が不可欠である。適正な評価とは単に高水準にあるということではなく、業務プロセスの実態から構築された納得感のある評価体系であることが重要と考える。本研究では、ケアマネジメントの業務プロセスに影響を与えると思われる利用者の特性に着目し、業務プロセスを構造的に把握することにより、適正な報酬体系を理論的に構築することを目的としている。
3.
利用者の特性として、「難病と認定されている場合」(医療ニーズに着目)、「認知症の重度の場合」(認知障害に着目)、「同居家族等の介護力のない場合」(介護環境に着目)、「いずれにも該当しない場合」の4種類を想定した。また、一連のケアマネジメント業務を48 項目に集約し、上記の各特性における「業務時間」「重視度」等をケアマネジャーへのアンケート調査により把握した。
分析手法には、業務プロセスに差異をもたらす利用者特性を確定するために双対尺度法(Dual Scaling)を用い、また、業務プロセス48 項目を特性別に構造的に把握(特性に依存しない項目群、特性別に差異がある項目群、特性以外の要素で個別性を有する項目群に分類)するために、判別分析を用いた。これらの過程から、報酬体系の基礎となる利用者特性とその特性ごとの業務プロセスの区分と評価を行った。
4.
業務プロセスに差異を生じさせる利用者特性としては、双対尺度法による分析の結果、「認知症あり」、「介護力なし」、「難病認定あり・いずれにも該当せず」の3カテゴリに区分された。業務プロセス全48 項目についての「業務時間」、「重視度」の回答傾向から、「難病認定あり」と「いずれにも該当せず」は近似性が認められたため同一カテゴリとなった。
5.
業務プロセスの区分では、重視度の回答をベースとした判別分析の結果、「特性に依存しない項目群」として“ケアプラン作成”関連項目、“モニタリング”関連項目が区分された。
また、「特性別に差異がある項目群」としては“インテーク”関連項目、“アセスメント”関連項目について、具体的には「認知症あり」では“家族・介護者との調整”にかかるプロセス項目が、「介護力なし」では“本人との調整”にかかるプロセス項目が区分された。
6.
身体機能面に特化した認定調査から導かれる「要介護度」では、在宅利用者を総合的に支援することをサービス内容とするケアマネジメントの業務負荷等を適切に評価しきることは困難であり、本研究成果をベースとしたケアマネジメントの業務プロセスの構造的把握に基づく適正な報酬体系を整備する必要があろう。ケアマネジメントの質の向上は、ケアマネジャーの納得感に支えられた適正な評価によってもたらされるものと考える。

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村田 久

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