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■目次
1.歳出・歳入の一体改革とは何か?
2.重要となる歳出削減の継続
■introduction
日本の政府債務残高(一般政府ベース:図表の脚注を参照)は、2005年の名目GDP比で170.0%にまで上昇しており、2000年からはイタリアを抜き先進国中でも最悪の水準に達している。経済規模の拡大を上回って債務残高の増加が続くなかでは、いずれ財政が破綻するという危惧も、現実味を帯びてくることになるだろう。
財政破綻を回避するために、政府は「2010年代初頭における国と地方のプライマリーバランス黒字の達成」を目標に掲げている。しかし、2003年度時点でプライマリーバランス赤字は約27.4兆円(SNAベース)の規模にまで達しており、その実現のためには今後数年間でこれほどの収支の改善を実現していかなければならないのである。
このようななかで政府は、本年6月にまとめた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針-2005(骨太の方針)」において、財政再建に向けて、「歳出・歳入の一体改革」という方針を打ち出している。歳出・歳入の一体改革とは、国と地方の歳出削減と、増税など歳入の増加を一体的に進めようという方針であり、(1)まず歳出削減を進め必要となる増税規模を極力小さくする「小さくて効率的な政府原則」、(2)民間主導の経済活力を引き出し、経済活力と財政再建を両立させる「活力原則」、(3)歳出減と負担増のあり方を選択肢を基に広く議論をおこなう「透明性原則」の3原則が、その根幹となっている。
では、何故、歳出と歳入の改革を一体的に進める必要があるのだろうか?
現在のわが国は、税収が長期的に低迷するなかで、歳出の削減がなかなか進まない状況が続いており、これが財政赤字の拡大要因となっている。しかも、図表-2からも明らかなように、高齢化の進展により、国全体の社会保障給付費は今後も急激に増加していくことが予想される。そして、これは社会保障給付の一部を負担する財政にとっても、歳出規模の拡大圧力が続くことは避けられないことを示すものだ。実際に、国の一般会計において、高齢化の進展等による社会保障関係費の自然増加額は、年間で約8,000億円規模に及ぶ。現在、財政の歳出削減がなかなか実現できない最大の原因は、この社会保障関係費の自然増加によるところが大きい。
このように、歳出の削減が思うように進まないなかでは、増税を実施することで歳入を拡大していくことも避けられないと考えられる。最近では、社会保障給付による財政赤字の拡大を食い止めるべく、消費税率を引き上げて、その全額を社会保障給付の公費負担分に充てる「消費税の社会保障目的税化」を求める見解もある。
社会保障給付の財源に充てるという名目の下では、消費税に代表される増税に対しての国民の理解も比較的得やすいかもしれない。しかし、社会保障給付が国民所得比で拡大を続けるなか、消費税の国民所得比は、97年度の引き上げ以降は、ほぼ3%強の水準で安定的に推移している(図表-2)。このため、今後も拡大が予想される社会保障給付の財源に消費税を充てるのであれば、歯止めなく税率を引き上げていく必要が生じる可能性が高い。結果として、たとえ財政赤字が縮小しても、国民負担の過度な増加を招く危険がある点には留意すべきだろう。
このように、歳出または歳入の一方を改革するだけでは財政再建を実現することは困難であると考えられる。だからこそ、消費税率の引き上げなどにより歳入を拡大させるだけでなく、同時に社会保障給付の抑制にも踏み込むことで、歳出規模の拡大に歯止めをかけるという、歳出・歳入の一体改革が必要不可欠と言えるのである。
(2005年12月25日「基礎研マンスリー」)
篠原 哲
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