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本稿では、コーポレート・ガバナンスが経営効率に与える影響に関して、包括的な実証研究を行った。分析対象をバブル崩壊後の東証一部上場企業(除く金融・公益)とし、経営効率を可能な限り精緻な全要素生産性(Total Factor Productivity:TFP)で測定して、株主構成、負債、取締役会構成などのガバナンス特性が果たした役割の解明を試みた。
ここでの具体的な課題は、(1)ガバナンスは経営効率の向上にとって重要なのか、(2)ガバナンス効果が発揮される経路はどのようなものか、(3)成長性や競争などの要因はガバナンス特性とどのような相互作用を持つのか、の3点に要約される。一連の分析から、以下の諸点が明らかとなった。
第一に、TFP 成長率は、株主構成や負債、取締役会構成など、ガバナンスの状態を規定する諸特性に大きな影響を受ける。この意味で、ガバナンスは経営効率の決定要因のひとつと考えられる。具体的な諸特性の作用は、次の通りであった。株主構成については、海外機関投資家の持株比率が高いほど、また安定保有比率が低いほど、TFP 成長率が高まる。また、負債比率については、その水準が高いほどTFP 成長率が改善する。他方、取締役会構成については、取締役会規模が大きいほどTFP 成長率が低下するが、社外取締役の存在は有意な影響を持たない。
第二に、ガバナンス効果は以下の経路で作用することが示唆された。海外機関投資家や安定株主による株式保有はモニタリング強度と関係しており、企業経営者は、強いモニタリングにさらされると、経営に対する緊張感を高め、自律的に努力水準を向上させる。同様に、負債比率の上昇も、倒産の脅威を高めることで、経営者に自律的な努力を促す。しかし、メインバンクによる他律的な規律付けの効果は弱く、逆に財務危機に直面した企業でモラルハザードを誘発した可能性が高い。他方、取締役会規模に関しては、組織規模の拡大にともなって、意思決定能力が低下することが示唆された。また、社外取締役は生産性の向上に貢献しないが、これは情報の非対称性によるものと考えられる。
第三に、以上のガバナンス効果は、企業の成長性や競争環境と複雑な相互作用を持つことが示された。成長性との相互作用については、負債の規律付け効果が低成長企業で増幅されるのに対し、安定保有の弊害は主に高成長企業で現れることが明らかとなった。一方、企業間競争との相互作用については、競争とガバナンス特性が、全体として相互補完的な関係にあり、非競争的な産業ではガバナンスの効果が相対的に小さいことがわかった。
(2004年05月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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