2003年12月25日

進む行政への民間手法の導入

篠原 哲

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■目次

1.各国で導入されるNPMの理念
2.日本におけるNPMの取り組みと課題

■introduction

わが国では、長引くデフレと景気低迷による税収の減少により財政赤字が深刻化している。政府は「2010年代初頭に、国と地方のプライマリーバランスの黒字化を達成する」ことを目標としているが、財政の悪化傾向には歯止めがかからない状況である。拡大した財政赤字を削減するためには歳入を増やすか、歳出を削減するかしなければならないが、経済の停滞が続くなかでは大規模な増税等の実施も困難であり、大幅な歳入の増加は当面のところ期待できない。そのため財政の健全化に向けては、歳出の削減とともに、「民間にできることは民間に任せる」など行政組織の効率化や予算編成プロセスの改善等を図り、限られた財源の中でより効率的な支出を行なうという観点も重要になってくる。
このような背景のもとで、注目度が高まっている理念に「ニューパブリックマネジメント(New Public Management:以下NPM)」と呼ばれるものがある。NPMとは1980年代以降、イギリスやニュージーランド等で形成された行政運営理念であり、その本質は「民間企業における経営理念・手法(経営効率性の追求、顧客満足、説明責任等)を公共部門にも適用することで政府支出の効率化、納税者である住民を顧客とみなした質の高い行政サービスの提供、行政組織の活性化、財政負担の抑制等を図る」ということにある。具体的な取り組みとしては、公共事業に民間資金や経営手法を適用する手法であるPFI(Private Finance Initiative)の活用や、民間企業で用いられる発生主義会計の公会計への導入等が挙げられる。
最もNPMへの取り組みが進んでいるとされているイギリスでは、1979年のサッチャー政権の発足以降、エージェンシー(独立行政機関)化の推進による行政組織の効率化、PFIによる公共部門への民間活力と競争原理の導入、質の高い行政サービスを提供するための施策の実施、などに代表される多くの行財政改革が実行されている。また、90年代以降では公会計に発生主義が導入されたように、財政の透明性と説明責任の向上に向けた改革も進行しており、1998年~2001年には財政収支の黒字化にも成功している。
このようなNPMの理念に基づいた行財政改革の動きは、80年代におけるイギリス・豪州・ニュージーランドから、90年代にはスウェーデン・オランダほか各国にも普及するなど、世界的に広がる傾向を見せている。

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