2003年09月25日

英国の地方都市における都市再生に向けた試行と成果 -ギャップ・ファンディングと魅力溢れるアーバン・デザインの導入-

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

真田 年幸 社会研究部門

渡部 薫 全国市街地再開発協会

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.
東京都心部では、丸の内やお台場、汐留、六本木、日本橋、品川などに、従来とは異なるビジョンを持った大規模開発が順次竣工し、洗練されたデザインと高規格な一体空間を持つ開発が、我々の様々な感性に心地良さを与えるようになってきた。こうしたフィジカルな空間の変化が、都市のネガティブな側面を吸収しながら着実に東京の国際競争力の確保と地域経済の発展に貢献していることは否めない。東京に代表される都市ストックの更新がこうして進み始めたことを前提に、次の都市政策の課題である地方における都市再生策の方向性について考えるために、英国の地方都市における都市再生策の取り組みを見直してみた。
2.
英国の都市再生事業の流れは、サッチャー政権によって築かれてきた。同政権が都市再生のために設けた都市開発公社による都市再生の経験はメージャー政権からブレア労働党政権に引き継がれ、世界的な建築家であるロジャース卿が率いるアーバン・タスクフォースによる都市再生に向けた提言書「アーバン・ルネッサンスに向けて」を通じて、地方と持続可能な都市づくりを基軸とする都市白書「われらの都市:その未来~アーバン・ルネッサンスの実現に向けて」が2000年11月に完成した。ここから、105の提言に基づく新たな都市再生策が試行を伴いながら展開されることとなった。
3.
都市白書では、フィジカルな都市再生に向けた提言として、(1)都市再生主体と補助金制度の見直し、(2)都市計画制度の中心にアーバン・ルネッサンスを位置づけ、コミュニティの参加を促し、優れた計画とデザインを推進すること、(3)住宅供給、(4)公共空間と公共交通の整備、(5)税制緩和による都市再生と投資の促進-などがルネッサンスの実現策として示された。
並行して、副首相府(ODPM)を頂点とした都市再生事業主体の見直しが行われ、新たな都市再生主体として、8つの地方開発機構(RDAs)とロンドン開発機構(LDA)が独立行政法人として創設された。都市開発公社とニュータウン委員会(CNT)の資産を引き継いだイングリッシュ・パートナーシップ(EPs)は、RDAsと差別化する形で再編され、地方の都市再生コーディネーターである都市開発会社(URCs)の創設も各地で進みつつある。
4.
地方予算に占める都市再生補助金の占率は約6.7%であり、ID 2000という荒廃度を示す複合指標によって中央政府からRDAsなどを通じて354の地方自治区に配分される。補助金として最も大きいのは、都市白書の提言によって、RDAsが自己の裁量によって弾力的に運用できるようになった単一プログラム(Single ProgrammeもしくはSingle Pot)である。このプログラムはODPMや経済産業省、労働年金省、教育技術省などの補助金や余資などをプールした統合予算によるものであり、8つのRDAsとLDAが自らの裁量で運用できる。2002/03年度の都市再生補助金の支出見込みは22.36億£であるが、Single Potはそのうち13.69億£を占める最大の予算である。
5.
都市再生補助金を供与するに際しては、厳格な事前評価と事業中のモニタリング、事後評価制度が取り入れられており、納税者に対し、補助金供与による成果(Outputs)を明確に示すことが要求される。こうした厳密なプロセスを経ることによって、都市再生事業に対して思い切った補助金の投下が可能となる。成果を逐一開示することは、地域経済に信頼と成長への確信を与えることとなる。
6.
英国の都市再生事業に最も貢献してきたのが、EPsによって始められたギャップ・ファンディングによる補助金供与の仕組みである。これは都市再生事業が完成した時点における当該事業の価値(エンドバリュー)が、深刻な荒廃によるネガティブな地価などのために、総開発費用を下回ると予想された場合に、RDAsやEPsがそのギャップを埋めるために供与する補助金である。現行制度では総開発コストの35%~50%までが補助の限度である。開発行為が実現不能な立地において、最低限の補助金額によって持続可能な形で都市再生事業を成立させることができるため、地域戦略上、成功が必須である事業への適用は非常に効果的である。
7.
サッチャー政権は、ロンドン・ドックランドの開発などを通じ、都市再生事業には常に新しい魅力があり、持続性の高いアーバン・デザインの導入が重要であることを示した。戦略的な都市再生プランなどに基づく、地域固有の基盤にフィットする高い規格をもった魅力あるアーバン・デザインは、人々や企業立地を誘因し、都市再生を成功に導く重要な要素である。ロジャース卿は、アーバン・タスクフォースによる提言にこれを体系付け、ロンドンに始まる魅力あるアーバン・デザインの流れを、バーミンガム、マンチェスター、リバプールなどの地方中核都市に再現した。地域に応じて構築された優れたアーバン・デザインは、衰退した都市に再び人々を集め、持続的な都市再生を実現している。
8.
わが国の地方都市における持続的な都市再生を推進するためには、これまでの英国の経験に習い、(1)地方に立脚しながら国の予算措置を自己の裁量によって講じることのできる都市再生主体を設け、(2)優れたマスタープランとアーバン・デザインにより人々と投資家を魅了し、(3)戦略的に必要な都市再生事業を確実に成功に導く、ギャップ・ファンディングのようにインパクトのある支援措置を講じていくことが重要である。

Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

社会研究部

篠原 二三夫
(しのはら ふみお)

真田 年幸 社会研究部門

渡部 薫 全国市街地再開発協会

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【英国の地方都市における都市再生に向けた試行と成果 -ギャップ・ファンディングと魅力溢れるアーバン・デザインの導入-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

英国の地方都市における都市再生に向けた試行と成果 -ギャップ・ファンディングと魅力溢れるアーバン・デザインの導入-のレポート Topへ