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厚生年金財政の予測とリスクの分析 -保険料固定モデルの議論を中心に-
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1.
公的年金改正の議論に不可欠な将来の財政予測は、従来から人口や経済関連の変数についてある特定の値を組み合わせた、シナリオにもとづいて作られてきた。しかし、この方法では、(1)各シナリオが起こる確率がわからない、(2)複数の変数が同時に変化した場合の各変数相互の関連や影響がわかりにくい、(3)誰も正確には予測できないはずの前提についての実りのない議論が繰り返されてしまう、という問題があった。
2.
本稿ではこれらの問題を解決するために、モンテカルロ・シミュレーションの手法を用いて厚生年金財政の将来を予測した。この手法は、変数の分布に確率をつけ、それらを同時に変動させて、確率付きの予測を生み出すものである。具体的には、給付水準(代替率)を維持する方式、及び今回の改革論議で初めて登場した、支え手(被保険者)の減少を給付水準に反映させる方式(保険料固定方式)による、2042年までの財政の姿を予測した。
3.
シミュレーション最終年である2042年でみると、給付水準(代替率)を維持する方式では、積立度合(積立金の支出に対する倍率)が1.0未満となる確率が16.2%、積立金がマイナスとなる確率が9.1%であった。これに対し、議論の中心となっている削減幅に下限のついた保険料固定方式(物価上昇率がプラスの場合には少なくとも名目額を維持し、マイナスの場合には支え手数の減少を反映させない)では、上記の確率は各々11.6%、7.4%まで低下するものの、依然として無視できない水準となった。また、資産を取り崩して、50%程度の代替率を維持するという案でも、財政困難に陥る確率はほぼ同じであった。しかし、給付の削減に下限をつけず常にマクロスライドさせる方式をとれば、積立度合が1.0未満となる確率が6.5%、積立金がマイナスとなる確率が4.2%まで低下する。
4.
各変数が財政に与える影響を見ると、中でも死亡率と資産価格、特に前者の影響が大きく、ついで経済変数(物価上昇率と賃金上昇率)であり、2042年まででは、出生率の変動はほとんど影響を与えていない。
5.
厚生年金財政のリスクを軽減するためには、第1にマクロスライド方式の給付削減には下限を設けず、また、死亡率の改善も直ちに給付額に反映させ、拠出建ての賦課方式とすることである。第2に賦課方式よりリターンが高く、リスクが低いと考えられる積立方式の年金を従来の制度とは別に導入する。第3に新たな制度への移行時に処理が必要な過去勤務債務については、誰もがわかるようにそれを将来の年金と分離し、できるだけ早い時期に処理の目処をつけるべきである。
(2003年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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