2002年12月25日

「環境経営指標」の時代へ -環境負荷と経済価値のバランスから環境経営を評価-

川村 雅彦

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1.
「環境経営」とは、持続可能な社会構築への決意表明とともに、環境保全を必要悪的なコストではなく競争力や収益力に転換しようとする経営である。「継続的に環境保全に取り組むために、環境保全と利益創出を同時に実現していく」というリコーの考え方は象徴的である。
2.
わが国における環境経営の時代区分については、第I期(導入期)と第II期(普及発展期)ならびに第III期(深化期)に分けて考えることができる。現在は、第I期から第II期への転換期を迎えている。
3.
環境経営の「手段」と「目的」を混同してはならない。「手段」は環境経営の7要素と4原則からなる。「目的」とは、(1)環境負荷を継続的に削減すること、(2)“環境効率”を高め“環境リスク”を低減すること、(3)“環境競争力”と“環境信用力”を強化し、業績向上を図ること。
4.
環境経営の評価においても、「取組」と「成果」を峻別しなければならない。「取組」の評価とは“環境経営の手段がどれだけ実現できたか”を定性的に問うこと。しかるに、「成果」の評価とは“環境経営の目的がどれだけ達成できたか”を定量的に問うことである。
5.
「環境経営指標」とは、環境負荷削減と経済価値創出の両立という環境経営の成果を定量的に把握・評価するものである。「環境効率」が中心となるが、「原単位」や「環境会計」との関連も少なくない。
6.
環境効率は企業の持続可能な発展に向けたすべての課題を包含するものではないが、環境効率の改善は企業の持続可能性の向上にとって重要である。内部の意思決定ツールとして、また外部ステークホルダーとのコミュニケーション・ツールとしての有効性をもつからである。
7.
WBCSDの提唱する環境効率(Eco-Efficiency)は、〔製品もしくはサービスの価値〕÷〔環境への影響〕で定義され、“企業活動に伴う環境負荷を最小化しつつ、創出される経済価値を最大化する”ことが環境効率の向上を意味する。
8.
原単位の逆数となる環境効率は“どれだけ環境に負荷を与えることで、どれだけ経済価値を創り出せたのか?”と環境の利用効率を問う。しかるに、環境会計は“どれだけ環境コストをかけることで、どれだけ環境効果があったのか?”を問うものである。
9.
最近の環境報告書では、環境会計と環境経営指標(環境効率や原単位)が併記されることが多い。環境会計による環境保全の費用対効果とともに、環境経営指標により経営全体の経済価値と環境負荷のバランスを分析することで、環境経営のレベルが把握できるからである。
10.
環境先進企業(素材系製造業1社、加工系製造業5社、食品製造業2社、流通業1社)が導入した環境経営指標の概要は次頁の図表のとおりである。まだ試行的な段階ではあるが、指標名称は様々であり、基本式の分子・分母に採用する環境負荷も独自に開発している。データ・バウンダリーについては、「拡大生産者責任」と「連結環境経営」の観点からの検討が課題である。
11.
環境経営における環境負荷の削減と経済価値の創出のバランスを定量的に計測・分析・評価するという意味においては、環境会計と環境効率は同根である。両者を統合した総合的な環境経営指標の開発の可能性は高い。

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