2002年12月25日

非正規労働者の基幹労働力化と雇用管理の変化

武石 恵美子

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1.
近年、非正規労働者が増加し、そのウェイトは急速に高まってきている。非正規労働者の量的拡大と併せて、質的な側面での変化も急速に進んでいる。本稿では、1990年代以降における非正規労働者が担う「仕事」の変化に着目し、それに伴う雇用管理面での対応について、第三次産業に属する50社に対する企業ヒアリング調査の結果を分析した。
2.
非正規労働者の雇用拡大の重要な側面は、正規労働者が担ってきた業務、特に管理業務や指導業務、判断業務を徐々に非正規労働者に移行させていくという変化、すなわち「基幹労働力化」を伴った点であることを事例調査から確認した。非正規労働者雇用について、正規労働者と非正規労働者の仕事の分担という面から類型化を行った結果、基幹労働力化を進めてきた企業はヒアリング企業50社のうちの32社にのぼっている。このうち90年代に正規労働者の基幹的な仕事を非正規労働者に移行した企業は20社である。
3.
従来、スーパーや外食産業で基幹的な「パート」が存在していることが指摘されてきたが、90 年代には、さらにこの傾向が第三次産業の他の業種にも拡大しつつあるといってよい。しかし、すべての企業が非正規労働の基幹労働力化に向かっているわけではない。小売業の中でもチェーン展開をするスーパーや百貨店、外食産業を中心に、非正規労働者比率を高めつつ非正規労働者の基幹労働力化を進めている動きが顕著にみられている。
4.
基幹労働力化を進める要因として、仕事の要因と、キャリアの要因が考えられる。基幹労働力化は、仕事の標準化を図ることで一定のサービスの質を維持できるか否かという仕事内容に依存する部分が大きい。非正規労働の拡大はコスト削減を狙ったものではあるが、それでも一定のサービスの質は維持しなければならない。そのために、仕事を標準化して、非正規労働者に移行している。また、キャリア要因に関しては、非正規労働者の企業定着性が重要な要素である。非正規労働者の定着により能力が高まり、企業内でのキャリア形成を経て、基幹的な仕事を任せることが可能になっているケースは多い。さらに、非正規労働者の労働市場が比較的狭いことと関連して、企業の立地条件による労働市場の特性にも起因している。
5.
基幹労働力化を進める企業では、非正規労働者の中に複数の雇用区分を設定する、パート社員の雇用区分に上位職を設定する、といった方法で、非正規労働者の中をさらにセグメントした雇用管理が行われているケースが多い。非正規労働者を、一律に内部労働市場の調整機能である縁辺労働力として位置付けるのではなく、むしろ、非正規労働者の中で労働者の選別を強化しつつ、優秀層を内部化していく動きさえ読み取れる。
6.
非正規労働者の基幹労働力化を企業が明確な意図をもって進めており、そのために様々な制度対応が行われてきた。基幹労働力化した非正規労働者に対しては、雇用の安定性や処遇の面で、一般の非正規労働者に比べると高い条件が設定されており、こうした雇用管理面での変化は、非正規労働の働き方のバリエーションの拡大につながり、非正規労働者を、比較的短期で退職する企業定着が不安定な労働者とする企業内での位置付けが変化しているとみることができる。今後も非正規労働者の基幹労働力化が進むことが予想され、正規労働者との処遇格差の是正、及び基幹労働力化した非正規労働者のキャリア展開が課題と考える。

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