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2002年09月25日

企業年金の運用機関による顧客ファンド間の内部クロス取引と401(k)制度加入者に対する投資助言 -米国エリサ法における利益相反取引の規制見直しを巡る最近の動向-

土浪 修

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1.
本稿では、米国の企業年金の運用機関の2つの業務を取り上げて、利益相反取引に対する規制の見直しが進んでいる様子を紹介する。運用機関(関係会社を含む)による多様なサービスの提供は顧客にとっても便宜であるが、利益相反が生じる機会も増える。
2.
米国の企業年金法であるエリサ法では、年金資産の投資を行う者や投資助言を提供する者は、運用機関を含めて「受認者」とされる。受認者は忠実義務や注意義務を負うとともに、利益相反の外形を有する取引を一律に禁止される。ただし労働長官は、年金制度や加入者の利益となり加入者保護上問題がない場合には禁止取引の適用除外を認めることができる。
3.
運用機関が顧客ファンド間の売買を証券会社を介さずに帳簿上の振替で処理する「内部クロス取引」は、年金制度の取引費用削減という利点があるが、他方、顧客間の利益付替が行われる恐れがあり(顧客間の利益相反)、エリサ法上も禁止取引に該当する。
4.
労働省は、利益相反防止策を講じて適用除外を申請した個々の運用機関に対して内部クロス取引を認めてきた。運用機関の裁量が限られるインデックスファンドでは比較的緩い条件が、裁量が広いアクティブファンドでは、より厳しい条件が設けられてきた。
5.
本年2月、労働省はインデックスファンドにおいて内部クロス取引を認める一般的条件を示して、投資顧問会社や信託銀行が個別申請なしで内部クロス取引を行うことを認めた。主な条件は、インデックスの構成の変化やファンド資金の出入り等にともなう機械的な売買に限ること、終値で執行すること、手数料を徴収しないこと、年金制度の受認者が事前に文書で同意すること等である。
6.
401(k)制度に投資方法(株式ファンド、債券ファンド等)を提供する運用機関が加入者に「投資助言」を提供することは、加入者の適切な投資決定に資するが、他方、自己の運用報酬増加を図るための偏った投資助言がなされる恐れがあり(加入者と運用機関の利益相反)、エリサ法上も禁止取引に該当する。
7.
労働省は、投資助言の提供に関しても適用除外を認めてきた。利益相反防止策として2つの方法がある。第一は投資方法の相違にかかわらず運用機関が受け取る報酬を平準化する方法、第二は外部の金融専門家が作成したコンピュータープログラムを利用して投資助言を提供する方法である。
8.
昨年12月、労働省は上記の第二の方法は、一定の条件をみたせば禁止取引に該当しない(適用除外なしで行える)との新たな法律解釈を公表した。また議会でも投資助言を促進するエリサ法改正法案が審議されている。下院では、投資方法を提供する運用機関も利益相反に関する情報を加入者に開示すれば投資助言が可能となる法案が通過した。上院では、助言資格を投資方法を提供しない運用機関に限りつつ、投資助言者を任命し監視する事業主の義務や責任を軽減する法案が委員会を通過した。
9.
わが国の企業年金においても、取引コストの重視やインデックス運用の増加、確定拠出年金の導入といった事情を踏まえれば、米国の事例は参考になろう。なお、わが国の企業年金法制においては、運用機関に対する規制は抽象的な「忠実義務」に止まり具体的な禁止行為は規定されていない。金融法制との二重規制は回避されており、これを維持すべきである。

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