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- 残余収益モデルによる株式評価
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近年、株式の本源的価値を評価するモデルとして、残余収益モデル(Residual IncomeModel)が注目されている。このモデルは、株式の内在価値を「株主資本簿価+将来の残余収益の現在価値の総和」に分解して表わすものである。
残余収益モデルは、クリーン・サープラス会計を前提にすると、配当割引モデルと等価である。だが、このモデルでは株主資本簿価の占める部分が大きいため、配当割引モデルに比べて将来キャッシュフローの予測誤差の影響が小さくなるという利点がある。また、会計操作に対する頑健性も残余収益モデルの長所の一つである。
米国の実証分析においては、残余収益モデルによる内在価値/株価はB/P(1株当り純資産/株価)よりもクロスセクションの3年間の収益率予測に有効だという結果が得られている。しかし、日本の株式市場では、内在価値の株価に対する説明力はBPSよりも高いとはいえず、また、内在価値/株価の期待収益率に対する予測力もB/Pに対して特に優位とはいえない。ただし、業績情報を使用している残余収益モデルの方が安定性は高いという結果が得られている。
規模との関連においては、小型株では残余収益モデルの有効性が低下するという結果が得られている。これは業績予想の精度と関係している可能性がある。また、低B/P銘柄に対して残余収益モデルが有効との結果を得た。これは、低B/P銘柄の中に混在している「成長株」と「割高株」を識別するのに、業績情報が寄与しているからだと考えられる。つまり、過去の投下資本しか反映していないB/Pのバリュエーション指標としての限界が明らかになったといえる。なお、業種分散投資する場合、残余収益モデルによる内在価値/株価は、B/Pを上回るパフォーマンスをあげている。
残余収益モデルの残余収益を計算するのに使用する業績予想データに関して、銘柄属性が予想誤差の絶対値に影響を及ぼすことが確認された。また、業績予想の符号付き誤差は、銘柄属性や景気変動の局面に応じて、銘柄によって相対的に楽観あるいは悲観にぶれることが観察される。したがって、このモデルではリスク・プレミアムによる調整だけではリスクを完全にコントロールできないため、リスクを統一的に扱うことが今後の課題となろう。
(2002年02月25日「ニッセイ基礎研所報」)
遅澤 秀一
遅澤 秀一のレポート
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