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1.
日本銀行(以下、日銀)は2001年3月のゼロ金利開始の際、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品、以下、CPI)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続」との姿勢を示し、CPIを目的変数として明示的に取り入れることとした。こうした物価を政策変数とする動きは各国中央銀行においても重要な関心事となっており、一部の国ではインフレ・ターゲティングとして導入されている。したがって、日銀の金融政策を規定する物価の動向を先行的に把握することは、現在のゼロ金利政策の動向を判断する上で意義のある研究テーマであると考える。しかしながら、長期にわたる日本経済の低迷を背景に経済金融環境は不安定となっており、物価と経済諸変数との安定的関係を見つけることは困難といえる。
2.
本論の目的は、「情報変数」の考え方を利用し政策反応関数を推計することにある。なお、政策反応関数には2つの目的がある。一つは政策当局(日銀)にとって最適な政策目標を推定するものであり、もう一つは市場が政策当局の行動を予測するモデルである。本論で展開した政策反応関数は後者の意味を有するものであり、構造的な因果性より予測性を重視したモデルを目指している。
3.
情報変数とは、経済諸変数間の構造的な因果性が弱まっているとき、時間的な先行性、つまり予測性をより重視する考え方であり、1990年前後に米国内でもその適用が議論された。特に、金融政策の運営に当って、ゼロ金利政策による金利制約があり、マネーサプライなど適当な金融変数を中間目標として位置付けることが困難な日本では、情報変数のような誘導型接近法が有効であると考える。一方、対象となるCPI総合指数をそのまま利用するのは問題も多い。物価の変動が伸縮的か粘着的かによって異なるからである。そこで、CPIについては財貨とサービスに区別して推定すると、財貨のCPIは変動が大きく、情報変数でさえ90年代に入り安定的な変数選択が困難な状況にある。
4.
つまり、量的緩和政策が仮にデフレ状況からの脱却に効果を発揮したとしても、その制御をCPIに求めるのは難しいことを意味している。2001年以降の金融政策では「CPIが安定的にゼロ%以上となるまで継続」としているが、CPIの動きと現在の金融政策が果たして整合的に進められるのか疑問ともいえる。一方で、日銀の政策変更を事前に予期していくとの本論の目的では、CPIのサービスの変動をみていくことが重要といえる。CPI全体が安定的にゼロに向かうかどうかの判断は、CPIサービスを一つの判断材料とすることが可能である。サービスのCPIのインデックスをみると、先行き物価が再度低下することを示唆している。少なくとも向こう1年間の政策変更を示す兆候はない。
(2001年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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