- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 労働市場 >
- 若年層の失業構造 -高失業率の要因とその背景-
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.
雇用情勢が依然として厳しい中、特に若年層の失業率の高さが目立っている。15~24歳の99年の失業率は9.1%であったが、そのうち景気の悪化に伴う「需要不足失業率」は2.3%、労働市場の構造的な問題によって生じる「構造失業率」は6.8%と推計される。若年失業者の約8割が構造的な失業と考えられ、その割合が全体に比べて高くなっている。
2.
若年層の「構造失業率」を押し上げている要因のひとつに転職率の高さが挙げられる。転職がスムーズに行われていれば失業率は高くならないが、実際にはいったん会社を辞めた後の再就職率はかならずしも高くない。そのため、若年層の離職率の高さは失業頻度の高さにもつながっている。若年層の失業継続期間は他の年齢層に比べて短いが、失業頻度が非常に高いためにストックとしての失業者が増加し、失業率も高くなっているのである。
3.
失業頻度の高さにつながる若年層の活発な転職行動の背景には、転職コストの縮小がある。転職により賃金水準は低下することが多いが、その低下幅は近年縮小傾向にある。転職によるコストが小さくなることは、若年労働者の転職に対するインセンティブを高めるひとつの要因になっていると考えられる。
4.
転職できずに失業した場合でも、若年層の場合は、親をはじめとする他の同居人の所得によりその生活が支えられている部分が大きい。若年失業者が属する世帯の所得水準は、同じ年齢階級の賃金水準の約3倍と高くなっている。若年層は世帯主の割合が低いため、たとえ失業したとしても同居している世帯主の所得などにより、世帯全体の所得でみれば比較的高水準に保たれており、このことがいわばセイフティネットの役割を果たしていると考えられる。近年、未婚化、晩婚化の進展とともに「親と同居する未婚者」の割合が増えていることが、この傾向に拍車をかけている。このような世帯構造の特徴、変化は、若年失業者の生活を下支えしているという働きをしているが、その一方で若年が失業しやすい状況をつくり出しているともいえる。
5.
若年層の失業は構造要因による部分が大きいため、景気回復が続いても失業率が他の年齢層ほど下がらない可能性が高い。若年層の高失業率による問題は今のところあまり顕在化していないが、このまま放置しておけば将来的には日本経済の長期停滞に陥るなどの深刻な影響を及ぼす可能性があり、軽視すべき問題ではない。
(2000年07月25日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1836
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
斎藤 太郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/20 | 消費者物価(全国25年5月)-コアCPIは食料中心に上昇率拡大も、夏場には3%割れへ | 斎藤 太郎 | 経済・金融フラッシュ |
2025/06/18 | トランプ関税による企業収益への影響~輸出数量減少よりも輸出価格引き下げのほうが悪化幅は大きい~ | 斎藤 太郎 | 研究員の眼 |
2025/06/18 | 貿易統計25年5月-米国向け自動車輸出が価格低下を主因として大幅減少 | 斎藤 太郎 | 経済・金融フラッシュ |
2025/06/09 | 2025・2026年度経済見通し-25年1-3月期GDP2次速報後改定 | 斎藤 太郎 | Weekly エコノミスト・レター |
新着記事
-
2025年06月23日
インフレ時代にオフィス市場で普及が進むと期待されるCPI連動条項 -
2025年06月23日
マスク着用のコミュニケーションへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと -
2025年06月20日
トランプ関税をオプションで考える-影響と対応のヒントを探る -
2025年06月20日
英国金融政策(6月MPC公表)-金利据え置きで従来の利下げペースを維持 -
2025年06月20日
保険会社の人工知能(AI)ガバナンスに向けた意見(欧州)-欧州保険協会の回答書より
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
【若年層の失業構造 -高失業率の要因とその背景-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
若年層の失業構造 -高失業率の要因とその背景-のレポート Topへ