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- 議決権行使の助言と委任状規則における「委任の勧誘」 -米国の委任状規則・SECの見解の変遷を中心に-
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1.
わが国でも機関投資家による適切な議決権行使が求められるようになってきた。米国では、IRRCやISSといった、機関投資家に対して議決権行使(委任投票)の助言・代行を行う専門機関が発達しているが、助言(議案に関する分析や賛否の推奨)と委任状規則における「委任の勧誘」との関係は必ずしも明確でなかった。
2.
証券取引所法とそれに基づくSECの委任状規則により、委任を勧誘する者は、被勧誘者に対する説明書の提供やSECへの届出等が義務づけられる。「勧誘」の定義は、脱法を予防する観点から、徐々に拡大されてきた。56年の規則改正により、「委任の獲得の結果を招くことが合理的に計算された状況において、証券保有者にコミュニケーションを提供する」ことも勧誘に含まれるとされた。その結果、たとえ委任を求める意図がなくても、委任投票に影響を与える行為は、状況次第で勧誘とみなされる恐れが生じた。委任投票の助言、特に議案に対する賛否の推奨は、勧誘に該当するのではないかとも考えられた。
3.
他方で、委任状規則が委任投票のための情報収集や情報交換を阻害しないように、委任状規則の適用除外も整備されてきた。例えば、79年には、金融助言者が行う委任投票助言が委任状規則の適用除外とされた。SECは、当初、ISSのような委任投票助言を専門に行う者は金融助言者には該当しないと判断したが、92年に見解を変更した。その結果、専門会社による委任投票助言は、発行会社や議案に対する利害関係の開示、被助言者以外から報酬を受けない等の条件を満たせば、委任状規則の適用除外となった。この見解変更の背景には、SECの、機関投資家間の自由なコミュニケーションがコーポレート・ガバナンスに果たす役割の重視がある。
4.
わが国では、米国に習って、証券取引法と委任状規則が委任の勧誘を規制しているが、勧誘の定義に関する議論は少ない。また、上場企業の多くは、81年に導入された書面投票を利用している。議決権行使の助言・代行と委任状規則の関係について検討すると、助言には特段の制約がない一方、判断の一任については、委任状方式では実質的に不可能、書面投票方式では可能のように考えられるが、解釈論には限界がある。
5.
機関投資家の議決権行使にとって助言・代行機関が有益であるとすれば、当該機関を新たな専門家として積極的に受け入れることが適当であろう。また、助言・代行が適正に行われるためには、法規制や行政監督よりも、利用者たる機関投資家の評価・選択による規律付けに任せることも考えられよう。
(1999年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)
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