1998年10月25日

「国際通貨管理体制の強化」

細見 卓

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過般のアジア経済・金融危機に際しては、 IMF・世銀からの資金援助によってかろうじて破局を免れた。 小康状態を呈するようになると、 IMFの融資条件が過酷に過ぎる、 あるいはその経済指導は厳しすぎるというような批判も散見されるようになった。 何よりも米国議会の拒絶的な態度のために、 活動のための資金補給が手間取り、 目下200億ドルを下回る資金しか動員できない状況にある。


IMF の金融危機対応の有効性
IMFの融資条件が過酷であるという論は、 アジアで起こった金融危機は速すぎる短期資本の流出で資金繰りが不可能になったためであって、 従来の被援助国に見られるような財政の破綻、 金融政策の混乱という経済の基本体質から発生したものではないという考えに基づいている。 「むしろ、 行き過ぎた民間企業の投資活動にあったのであるから、 そのような行き過ぎを抑えていれば良いのであり、 一律に緊縮財政や高金利を強いることはなかったのではないか」 というのが批判の主眼である。 この考え方を実行に移したのがマレーシアの資本移動を規制する政策である。
この論に対しては、 いますぐ当否をきめかねる面もあるが、IMFの規制措置を契機として経済活動が大幅に低落し、 それに対する有効な対策もないままにラテンアメリカ諸国、 さらにはロシアが強度の金融不安を引き起こしている。 そうした状況を見ると、 現在の世界経済はアジア経済の回復を支える方向へむかっていないということを認めざるをえない。
このように短期資金が広くまた自由に移動しているという、 いわば広い自由主義をベースとする市場主義というものに対して、 世界の金融機構が有効な対抗策を持っているのだろうか、 という疑問も強い。


世界の主要関心から離れうるアジア問題
このような状況を背景として、 英国のブレア首相、 フランスのシラク大統領等の欧州勢は、 世界の金融機構の強化・安定を先進7ヶ国首脳会議における主要テーマとして取り上げようとしており、 また米国のクリントン大統領も 「米国は迫り来る世界的な金融危機に対し断固として立ち向かう決意である」 と明らかにしたと新聞は報じている。
しかしこのことには、 米国の主要な関心が中南米危機の防止とロシアの経済崩壊を防ぐことに移りつつあることが背景にあると思われる。 アジアを軽視しているとは言えないまでも関心が分散しつつある。 欧州においても、 欧州通貨統一を控えて、 ロシア通貨ルーブル切下げによる欧州諸国への甚大な影響抑制に最大の関心が移っていると見られる。 その点は、 欧州開発銀行の総裁がフランス人からドイツ人に交代するということからも窺える。
そうであれば、 いま金融危機の最中にあるアジアのことは、 その地理的な関係からして、 日本がよほど腰を据えて取り組まない限り、 世界の主要関心からはずれてしまう恐れがある。
日米首脳会談においても、 アジア通貨危機救済の緊要性について合意をみたところである。 われわれ日本としては自国経済の不況脱出をはからねばならないことは当然であるが、 またその不況脱出にはアジア経済の復活が不可欠であることは疑いない。
かつて提唱された 「アジア通貨基金」 の構想は実現に到らなかったが、 われわれ日本が主導して、 東南アジアで不足する貿易拡大のための資金を供給する何らかのシステムを構築することが、 現在の世界情勢の下では必要ではなかろうか。 方法は円の国際通貨化を促進することを中心に色々ある。
要は世界経済の体制を見据えて、IMFの基盤を強化する決心が大事である。

(1998年10月25日「基礎研マンスリー」)

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