- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者の医療・介護 >
- 介護サービス契約のあり方に関する一試論 -消費者保護にかかる8つのポイント-
1.介護保険の下では、介護サービスは事業者と利用者との契約により提供される。したがって、介護サービスの適正さ、「質」を確保するためには、消費者保護の観点から、介護サービス契約のあり方にかかる最低限のルールづくりを行う必要がある。そこで本稿ではとくに在宅介護サービスを念頭に置いて、具体的な検討を試みた。
2.まず契約締結過程においては、
(1)利用者からの申し込みがあれば、原則として事業者は契約を拒否できない(いわゆる締約強制)ものとするべきである。ただし、例外的に契約を拒否できる場合を事前に明確に類型化しておく必要がある。
(2)契約書は必ず作成すべきであるが、記載内容の標準化を図る必要がある。また、ケアプランとの関係の整理が課題である。
(3)利用者への事前の情報提供の充実が図らなければならないが、契約プロセスの段階(サービス選定段階/事業者選定段階/契約締結段階/サービス提供段階/サービス終了後)にあわせた適切な情報の選定・選別を行う必要がある。
3.つぎに契約内容については、
(1)契約文書・条項を通じた「質」の確保に関しては局面を分けて考える必要がある。とくに「損害発生」に対しては、事業者は高い注意義務を負うべきである。他方「不十分な履行」についての解決は、むしろ事前の情報提供や事後の市場評価に委ねられるべき部分が大きい。
(2)契約内容はある程度規制され、とくに訪問型サービスにおいて、付随的条項を通じた事業者側の責任の軽減については、法令等により厳しく制限される必要がある。
(3)利用者側にはサービス提供に対する一定の協力義務があると考えられるが、そこに過大な法的効果を負わせるべきではなく、また高齢者本人の意向に十分配慮する必要がある。
4.さらに紛争処理のあり方については、
(1)不適正なサービスに対する救済方法としては、完全履行(やり直し)の請求や、契約の取消も考えられるが、サービスの「質」に関する紛争においては、契約離脱の自由を確保しつつ、むしろ損害賠償の請求を基本とすべきである。
(2)救済手続きとしては、国家賠償等も考えられるが、むしろ行政の監視機能・事後的な是正措置との連携の下で、事業者への民事的な対抗手段を基本に考えるべきである。また訴訟等の前段階として、苦情処理手続の充実を図る必要がある。
5.これらの介護サービス契約自体にかかるルールづくりとあわせて、より制度的な問題―サービス評価、モニタリング、高齢者へのサポートシステム等々―にも取り組んでいく必要がある。
法政大学 社会学部
長沼 建一郎
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月10日
米国消費者の生命保険ニーズギャップは過去最大-コロナ禍以降、ニーズギャップは拡大- -
2024年05月10日
英国金融政策(5月MPC公表)-6会合連続で政策金利据え置きを決定 -
2024年05月10日
米労働市場の減速は続くか-中小企業を中心に労働需要が低下するほか、移民増加が賃金上昇圧力を緩和する可能性 -
2024年05月10日
投資部門別売買動向(24年4月)~個人は2カ月連続買い越し~ -
2024年05月10日
Japan Real Estate Market Quarterly Review-First Quarter 2024
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【介護サービス契約のあり方に関する一試論 -消費者保護にかかる8つのポイント-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
介護サービス契約のあり方に関する一試論 -消費者保護にかかる8つのポイント-のレポート Topへ