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戦後日本の進む道としては、 国内産業の育成、 輸出の増進、 またそれによって必要な原材料・燃料・食料等の輸入確保、 更には先進技術の導入ということがいわば基本路線であった。 その後日本経済が生産性・競争力を強化してくるのに伴い、 世界各国から 「日本経済はもっと積極的に国内市場を開放し、 互恵平等の貿易体制をとるべきだ。」 という要請が強くなって、 日本の黒字独占体制というものに批判が強まるようになり、 反面日本人の慢心をそそるようになった。 このような一極黒字化の趨勢に対する世界の批判に応えるべく、 前川委員会・平岩委員会等が民間の知識動員機関として組織化され、 それぞれから具体的建策中心のレポートが提出された。
構造改革を怠った日本経済
こうした日本経済の構造・役割・発展は、 現在の世界経済の中では容易に変わるものではない。 従って、 日本が世界と共に経済繁栄を持続していくための基本的方策は、 好況・不況にかかわらず構造的なものである。 世界経済が新技術の発展と共に急速に構造変化をおこしていることは避けられない趨勢である。 日本経済はこの構造変化に合わせ、 不断の変革を行わねばならない宿命にある。 にもかかわらず、 貿易黒字とバブルの生み出す白日夢 (ユーフォリア) は日本人にその経済の基本的な構造を忘れさせ、 日本の生産性向上のために構造改革が不可避であることを忘れさせた。
バブル崩壊を契機として世界の過剰生産体制が明らかになり、 またアジア経済危機の中で更にそれが先鋭化している。 日本経済がもつ基本的な脆弱性が露呈して久しいが、 バブルのため関係者の事態の認識が不充分であり、 単なる経済循環の大きなものであるかの如く錯覚して、 経済の基本的変革が不可避であることに気づくのが遅かった。 一方、政府もこの間要請されているのは経済の体質改善と生産性の遅れを取り戻す民間経済の側面支援であることに気づかなかった。 また日本の生産性の停滞を十分に認識せずに、日本の生産性はなお世界でも優れたものと錯覚して、 日本経済の体質改善に真剣に打ち込まなかった。
確かに日本経済が収縮し景気が悪い時には、 救済を求める声が多くなる。 そのための対策も時には必要であろう。 しかし、 生じている不況が日本経済が周囲の変化・進歩に遅れたことに起因していることに気づかず、 またその挫折のために生じる摩擦・困難は避けられないことに気づかずにいる。 ただ傷を癒せばよいという式で、 その企業なり事業なりの将来の展望を明らかにせず、 いたずらに救済策のみをこととするのは事態を更に悪化させるだけである。 それは速やかな日本経済の再起・転換に対しては有害である。
前川委員会以来提案されてきた苦痛を伴う抜本策は、 現状の利益を主とする既成の勢力によって拒否され、 今日に到るまで残念ながらこれといった改革が見られなかった。
具体策こそ望まれる
我々日本人が不満であると考えるだけであればまだしも、最近では色々な国際会議で 「日本は激変する環境に対して対応能力を欠いているのではないか。」 というような日本人の能力を疑うような言論すらまま聞かれる。 内政干渉とも聞こえるこのような議論に対して感情的に反発する人達も多いが、 それで問題は解決されない。 感情的な反駁ではなく具体的対策の決定と実行が今切実に要請されているのである。
戦後今日まではいわば"追いつき追い越せ"で増加してきた日本の大きすぎる貿易黒字をいかに減らすかということが問題であり、 比較的対応も容易であった。 しかしこれからは競争劣後となった日本産業にいかに競争力を取り戻すかが問題であり、 漫然とした 「日本人は勤勉である」 「日本の生産性は高い」 というようなことで乗り切れるものではない。 いかに改良策をシステム化してこの立ち後れを克服できるかということに具体策が求められている。
このように緊急で切実な対応が求められている時に、 日本での議論は抽象的な"あれかこれか"式の議論に終始している。 今まで日本の政治は経済の実態には直接タッチせず、 生産されたものの配分のみをおこなってきた。 今や官僚に産業指導の理念なく、 政治が経済に直接かかわる以外に道がなくなった。 しかしこれは官僚同様未経験な分野であり、 当面の困惑がしばしば見られる。 閉塞感というのはここに根本原因がある。 この自覚からはじめて、 日本を誰がどのように一貫した政策で指導するかが、 今問われている最大の問題である。 大切なことは首尾一貫することである。
(1998年05月25日「基礎研マンスリー」)
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