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資本主義経済は、 あらゆるものが市場を通じて適正な価格で交換されることを基本前提としている。 各国の市場で物財が流通する際には、 それが当然のこととして考えられ、 また国際的にも貿易を通じ一物一価へ収斂していく方向にある。
また、 評価対象として難しいとされる人間の知能・技能力についても、 世界の進歩・発展と共に、 客観的且つより公正に評価される方向にあると思われる。
客観的評価の流れに遅れる簿価主義の原則
このような現状についての客観的評価が一般化していく中にあって、 遅れているのが、 会社の資産を取得原価により評価するという、 いわゆる簿価主義の考え方である。
企業の資産評価において、 保守主義を原則とし 「帳簿価額は、 時価と関係なく、 低いほど安全であり適切である」 とする考え方は、 今日のように企業の合併・分割が頻繁に起こりつつある時代にあっては、 大きな障害となっている。 また、 税制においてもこうした低い評価が容認され、 新規企業と既存企業との間に税負担の不公平も生じている。
そうした結果、 伝統ある会社においては、 多くの資産が取得原価のまま保有され、 他に転用すれば高収益をもたらしうる資産も、 低い評価であるがゆえに、 いたずらに放置されている。 他方、 バブルに踊って割高な資産を多く抱えた企業は、 必要かつ速やかな調整をせぬまま放置しているのが現状である。
会社というのは、 現状での進んだ技術と有用な資本財を適正に組み合わせ、有形無形の資本を無駄なく不足なく活用することにより収益をあげる、 いわゆるOINGCONCERN(継続企業) でなければならない。 利益を産まぬ巨大な資産をいたずらに温存することは、 限られた財の浪費であり国民経済的損失でもある。
今日の資本市場・不動産市場を見ると、 一方で資金・土地等の膨大な資本財が、 企業収益に貢献することなく温存され、 その資本の額にふさわしい活用がなされず放置されている。 他方で、 価値の暴落している資産が、 取得価額表示のまま放置され、 経済の大きな停滞要因となっている。
地価税の導入には、 このような非効率な所有を困難にしようとする目的があった。 しかし、 その意図が実現されることのないまま、 不十分な土地利用のもとで、 逆に地価税だけが批判されているのが現状のようである。
時価主義による平等な企業環境の整備
このような状況を改善し、 資本財を経済活動の推進により役立てていくためには、 商法にいう取得原価主義 (簿価主義) を、 情勢変化に対応できるよう再考することが必要であろう。
経済を活性化する新事業への参入を目指す企業家型の経営者を奨励する一方、 既得権に安住し資本の不活用を是認する経営者に警鐘を与えるためにも、 簿価主義を改め時価主義的経理方針を強く推進するべきである。 そうすることによって、 古い体質に新陳代謝を促し、 新規参入者は既得権者との不合理なハンディキャップを克服することができる。
このような平等で自主的な経済社会を建設することの必要性は、 いくら強調してもし過ぎることではない。 今やまさしく、 古い特権を切り捨て時価主義による新しい平等の企業環境を創るべきではなかろうか。
(1997年05月25日「基礎研マンスリー」)
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