1995年10月01日

米国企業年金における加入者利益専念ルール ~Fiduciary Duty の中核にあるもの~

土浪 修

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<要旨>

  1. 最近関心が高まっている企業年金の運営関係者の受託者責任の問題を考える際には、米国の規制が参考になろう。米国では、企業年金制度の包括的な規制法であるERISA(1974年従業員退職所得保障法)により、制度の管理運営にかかわる者のうち一定の者がfiduciary(受認者、受託者)と位置づけられ、義務と責任が明確化されている。
  2. fiduciaryの最も重要な行動規範は、年金制度をもっぱら加入者の利益のために管理運営しなければならず、fiduciary自身の利益はもちろん、事業主その他の第三者の利益を図ってはならないという「加入者利益専念ルール(exclusive benefit rule)」である。加入者利益専念ルールの原型である信託受託者の忠実義務は、利益相反の外形を有する取引を事前に排除する、厳格な義務とされる。
  3. ERISAは、加入者利益専念ルールを企業年金の場にふさわしい形で具体化するために、禁止取引とその適用除外という二段階の規制を採用している。まず、fiduciary、制度設立企業、およびそれらと一定の関係を有する者を「利害関係者」と定義し、利益相反を予防する観点から、制度と利害関係者との各種取引を一律に禁止している。また、fiduciaryの自己取引等は禁止され、制度による設立企業の株式の保有等にも一定の制限が課されている。
  4. 他方で、禁止取引が制度の運営や投資の、ひいては加入者利益の実現の障害となる場合があるという弊害を緩和するために、ERISA自体、およびERISAの授権にもとづき労働長官が定める規則により、禁止取引の適用除外が認められている。労働長官による適用除外規則の制定は、取引当事者の申請に始まり、労働省による検討、官報による規則案の公開とそれに対する関係者の意見の提出を経て行われ、適正な手続きが確保されている。また、制度の外部の投資専門業者に対しては各種の適用除外が認められている。
  5. 加入者利益専念ルールとその具体化である禁止取引や適用除外の一連の制度は、詳細な規制体系を形成しており遵守コストも決して小さくなかろう。ただし、同じくfiduciaryの重要な義務であるプルーデント・マン・ルールについては、情報公開や市場における適正な競争を通じたモニターが可能であるのに対して、加入者利益専念ルールについては、一定の外形判断をともなう事前規制の必要性が高いことに留意すべきである。
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