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- 多様化する家族と高齢者扶養 -ポスト「孝行社会」の親と子の支援関係
1995年06月01日
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<要旨>
- 平均寿命が伸び、一方で子どもの数が少なくなる中で、親の面倒をみて、高齢になったら子どもに面倒をみてもらうという「扶養連鎖」が続かなくなりはじめている。戦後家族の変化と親子間の支援関係、相続と扶養に関する調査結果から「ポス卜孝行社会」の親と子の支援関係を検討した。
- 家族は時代の流れとともに変化している。その変化の姿は、過去を基準に考えれば崩壊であり、未来に視点を移せば、社会変化に応じた家族の再編成である。しかし、高齢化が急速に進み、高齢者の扶養や介護が重大な社会問題になっている現在では、変わる家族をノスタルジックに嘆くことはあまり意味がない。戦後50年間に、日本の家族は小規模化し、性別役割分業が定着した。そして、近年では性別役割分業も女性の社会進出を契機に変化し始めている。しかし、その一方では伝統的な三世代同居家族も残っており、時代と共に変わる生活価値観と伝統的な価値観の狭間で高齢者の扶養、介護に対する考え方も揺れ動いている。
- 高齢者世帯の経済的な生活基盤は整っており、子ども世代から経済的援助を受けている高齢者世帯は少ない。反対に親から子ども世代への経済的支援は、生活費の支援から土地、住宅の購入の支援まで幅広く行われている。家事、看護などの援助は子ども世代から親世代に対して行われており、親世代からも子育てを手伝うなどの相互支援が行われている。
- 子どもから親に対する援助行動は、三つの原則が存在する。一つは性別役割分業に沿って援助が行われていること。二つ目は、長男が次男以下よりも親に対する援助に対しては責任を持っていること。最後が、同居者が別居者よりも親を援助するということである。この原則に照らしていえば、ある程度経済的にゆとりのある現代の高齢者にとっては、生活の支援をしてくれる娘の存在がより重要になっている。
- 親世代の扶養に関する意識には、三つのタイプがある。一番目のタイプは親の自立を求める「自立タイプ」、二番目は親の面倒は長男がみるべきであるといった伝統的な家意識を守る「家意識タイプ」である。三番目は親子二世代だけではなく、広く親族同士で助け合っていくことを支持する「共同体指向タイプ」である。どのタイプを指向するかは自分の置かれた立場によって極めて多様である。家族制度を基盤とした扶養意識を持つ高齢者も多く、一方で自律した高齢期を送りたいと考える人たちも増えてきている。このような現状では、人口構造が急速に高齢化していることと、家族関係が多様であるということを前提に、家族、地域、社会がそれぞれの能力に応じて役割を分担する共同支援社会を築くことが期待されているのではないだろうか。
(1995年06月01日「調査月報」)
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