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- 新しい債券価格モデルと投資手法 -債券割引率の期間構造と債券価格の推定・予測-
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<要旨>
- 1990年代に入り、株式のバブル崩壊とともに、金融機関において証券投資戦略の重要性が再認識され、リスク管理能力の強化と資産運用効率の改善が喫緊の課題になっている。そこで、数値による客観的評価が可能な、計量分析・モデルに基づく科学的な投資手法(クォンツ運用手法)が重視されるようになってきた。
- 本稿では、機関投資家の重要な投資対象である債券に焦点を当て、統計的モデル・アプローチによる、新しい債券価格モデルの基礎概念を説明する。統計的モデル・アプローチは、現実に観察される現象(金融資産の価格変動)の特性を客観的に把握し、そして、その観察・把握した結果と整合的な統計モデルを推定し、そのモデルを通して理論的類推・説明を行う帰納的な推論方法である。
- 従来の債券価格モデルは、欧米で主流の規範的モデル・アプローチにより、将来発生するキャッシュ・フローに対し、共通の確定的割引関数を用いて評価するため、実際の価格変動に必ずしも一致しなかった。現実の世界では、各投資家の投資スタンスは多様で、また、多種類の債券が存在している。そこで、実際の価格変動に矛盾しないように、割引関数を銘柄属性に依存して確率的に捉えた債券価格モデルが、CSMモデル(Cross-Sectional Market Model)である。
- CSMモデルを発展させ、割引関数に時系列構造を想定した債券価格モデルが、時間依存型マルコフ・モデル(TDMモデル、Time Dependent Markov Model)である。TDMモデルは、クーポン・レー卜や償還期間のような明確に把握できる銘柄属性だけでなく、投資家の銘柄選好など把握が困難な銘柄属性についても、過去の価格変動情報から抽出し、モデル化したものである。
- TDMモデルをわが国の長期国債(1980年2月から1994年12月までの期間)の価格推定に適用したところ、価格推定残差(標準偏差)は概ね50銭以内(91年以降は25銭以内)に収まり、高い推定精度が得られた。さらに、TDMモデルを用いて、個別銘柄の1ヵ月先の収益率を求め、それに基づきポートフォリオ運用シミュレーションを行ったところ、国債インデックスに対して超過収益が得られた。
- TDMモデルは、国債だけでなく金融債や事業債など他の債券への適用も可能なため、多種類の債券を含んだポートフォリオ運用のリスク管理や収益向上を図る上で、重要な意思決定モデルになるだろう。さらに、当債券価格モデルの概念は、ALM、転換社債、金利スワップ等への応用も可能である。
(1995年04月01日「調査月報」)
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