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漸く回復の緒についたかに見える日本経済にとって、突然の円高の現出は前途を暗くするような影響を与えるものである。為替の安定のためにも、欧米各国は日本経済の活性化による内需拡大と輸入の増大による貿易黒字の大幅削減を強く求めている。
世界経済の現状をみると、日本だけが引き続き黒字国として突出しており、各国の不満はいよいよ大きくなってきている。従って、日本の更なる経済的な拡大政策に対する各国の要求は防ぎようもないものであろう。先進国との関係において、一方的な黒字の累積が問題になっているのと同様に、アジア諸国との間でも日本の貿易黒字額は大きくなっており、昨今は東南アジア向けが対米黒字を上回る大きさにまで達している。米国経済の相対的な弱体化に対応して、これからのアジア諸国の経済発展を支え、これら諸国からの日本への輸出を増大させることが、世界経済の円滑な発展のためには不可欠のものであろう。一方で、日本がアジア諸国からの輸入を増やすことによって、これら諸国は円を手元に増やすことになり、これが円の国際化を促進することにもなって、今のような投機による円の行き過ぎた騰貴に対する効果的な防御策ともなるのである。一見、円の安定とは迂遠に見える日本のアジア諸国等からの輸入の拡大こそが、真の円の国際化を促し、円の国際通貨としての役割の拡大とその安定のためには不可避なのである。相互依存の貿易関係が為替安定の基本といえる。
また、7月21日からは、米国ワシントンでブレトンウッズ体制の50局年を記念して国際通貨体制の再建、強化についての主要な国際会議が開催された。変動相場制になりIMF体制が崩壊した時点では、各国首脳の理性的、抑制的経済運営によって、変動相場制はやがては安定した、緩やかで、かつ粘着力のあるターゲットゾーンのようなものに収斂すると期待されていた。しかしながら実際には、石油危機のような予測を超える大変革が起こったことにもよるが、変動相場の現状は各国の不安と焦燥を駆り立てるものになっている。
日本の黒字については、その有用性や無害性についていろんな議題も行われており、一概に断定することは難しい。しかし、今のような国際収支の不均衡を放置したままで、国際通貨の安定、日本にとっては円の安定を期待することは難しい。
現在、日本の対策として言われているのは、追加的措置としての財政投融資の拡大であり、金利の引き下げである。今なお続いている実質的な物価下落を考えれば、日本の実質金利は十分低いと一概に言うのは問題であろう。また、今までのような追加的財政措置が有効需要の拡大にあまり有効ではないという意見もあるが、現在日本が置かれている立場を考えれば、何らかの措置をとることは止むをえまい。
私はかって、為替の安定化に対してデノミの効用を説いたことがあるが、輸入増大に対して新しい大胆な提案を行ってみたい。それは、例えば3年とか、5年の期限を切って現在外国からの製品や原材料を輸入する際の障壁となっている諸規制を停止するのである。銃刀や麻薬といった明らかに反社会的なものを除いて、外国からの輸入に対する一切の規制を止めるのである。これまで政府は、日本はそれほど輸入制限的でないといろいろと世界に説明してきたが、日本の市場が外国製品に対して排他的であるという、いわゆるパーセプションは今も消滅していない。こうしたパーセプションが、諸外国の日本に対する様々な誤解と批判を生んできた。従ってこの際、あらゆる輸入制限的な規制について、これを一時的に停止する。そして外国製品の輸入を自由にする。全ての規制がなくなっていることを内外に言うことは、パーセプションを取り除くのに有効であり、またそうした措置は国際収支の有利な時にしかできないものであるから、今やってみて、当初限定した期間の経過後、改めて個々の規制の妥当性について振り返ってみるのである。例えば長年の交渉を経て漸くウルグアイラウンドで決着をみたコメ等は、その取決めを尊重すべきかもしれない。
実施に当たっては副作用を伴うかもしれないが、こうした大胆な対策こそ、諸外国の日本市場に対するパーセプションを払拭し、円が不当に購買力を超えて高くなっていくのを根本的に防ぐものだと信じている。
(1994年08月01日「調査月報」)
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