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長引いた不況もやがて下げ止まるだろうという明るい予測も一部には出ているが、全体としては未だ景気回復感は弱い。しかしながら、このように長引く不況の中にあっても引き続き売り上げを伸ばし、利益を向上させている企業も少なくない。
こうした企業の共通の特徴として言えることは、従来からの慣習を打ち破って新たに顧客中心の立場から思い切った新価格の提示と新製品の投入を行っていることである。いわゆる価格破壊を目指して従来の設計・製造・販売のやり方を思い切って変え、顧客の真の需要を見つけ出し、それに素早く企業活動を対応させた企業である。
これまでの日本の市場は、若干の例外はあるとしてもコスト+適正利潤に流通費用を加えたものが市場価格であり、メーカーや流通業者の事情がそのまま価格に反映していた。もちろん企業側も製品改良や経費節減等の企業努力を相応に行ってきたが、これは既存の体系を温存しながら、品質向上や機能強化等部分的な改良を加える形での製品供給というやり方であった。そのため変化の激しい顧客のニーズには必ずしも適応できず、時に予期せぬ滞貨や逆に品切れを招き、それが企業の好不況に大きく影響していた。現在の不況は、こうした生産・販売体制の中で顧客の需要を読み誤り、過剰な生産設備への投資と不要とも思われる製品品質の引き上げを積み重ね、その結果として顧客離れを招いたことが大きな原因と言えよう。
今まではこうした需給の不突合があっても、日本の産業界は免許制によって新規参入を抑えたり、製品規格面での詳細な規制や同業者間の申合せ等によって価格を維持操作し、最終的には顧客にツケを回す形で従来からの製造・販売のあり方を維持することが出来た。本来なら円が大幅に切り上がれば為替レートが購買力平価とリンクし、自由に製品を輸入することが可能となり、安い輸入品の著増によって国内価格もそれに見合って低下するはずである。市場が充分に弾力的であれば、円高は、輸出産業だけに犠牲を強いるのではなく、一方で安い原材料や製品が輪入されることによるメリットを国民全体に均霑するはずであった。円高になってもこれが実現されなかったのは、ひとえにこうした様々な制限や規制によるものであった。
しかしながら、今回の長引く不況は、ついに日本の市場のコスト+適正利潤という値づけのシステムを崩しつつある。ディスカウンターやカテゴリーキラーと呼ばれる低価格追求ビジネスの出現・浸透によって顧客のニーズに合わない価格水準ではものが売れず、メーカー側も製品の規格や品質、機能等をそれに合わせて見直さざるを得ない状況を迎えている。日本が開かれた経済であるとすれば、アジアのみならず世界中から安くてより良い製品を輸入することによってこうした価格破壊が国内で起きるのは当然のことであろう。また、価格破壊が進まず、このまま内外価格差を容認すれば、国民に不当な負担を強い続けることになる。
現在起きているこうした現象は、これまでの国内同業者間の申し合わせ的商慣習や人為的な市場価格操作を壊して市場が市場として本来の機能を発揮し、国民経済のバランスを取り戻すためには避けられないプロセスであり、日本経済の健全な国際化の一つの兆候として誠に歓迎すべきものであると言えよう。市場がその本来の機能を発揮し、市場価格が顧客のニーズによって決定されるこの価格破壊が進行すれば、これまで政治家や官僚をあてにして情性的な対応に終始してきた産業や企業は衰退し、これに代わって本来の企業家精神を持った新たなビジネスが創造されることになるであろう。これが日本経済活性化のために不可避なプロセスでもあろう。
(1994年04月01日「調査月報」)
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