1993年03月01日

経済の動き

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<米国経済>

92年10-12月期の実質GDP(速報値)は前期比年率3.8%と7-9月期に続いて3%を超える高い伸びとなった。この結果、92年の成長率も前年比2.1%と3年ぶりに2%を超える伸びとなった。これは設備、住宅投資の高い伸びに加え、個人消費が堅調に推移したことによる。ただし、10-12月期の成長率については貯蓄率の低下や、ハリケーン被害からの復興需要等が影響しており、景気の実勢よりもやや出来過ぎと判断される。今後は主に雇用環境の回復の遅れ等から、93年上期の成長率は若干低くなるものと予想される。この点については、グリーンスパンFRB議長も「高い成長率を持続するのは難しい」とコメントしている(1月28日議会証言)。

生産部門をみると、12月の鉱工業生産は前月比0.3%と3ヵ月連続で増加した。12月の耐久財受注も高い伸びを示しており、企業の生産活動は回復過程にあると判断される。長期金利も昨年秋以降から低下しており、一般・予算両教書の内容、特に投資減税の内容・規模次第では、設備投資の大幅増も予想される。

家計部門の指標では、12月の実質消費支出は前月比0.4%増となり、小売売上高も同1.2%増と消費は堅調な推移となっている。実質可処分所得をみても、同0.9%増(ハリケーン等の一時的要因除きでは同0.3%増)と増加している。ただし、足もとの貯蓄率が4%台と景気回復局面としては歴史的に低い水準にあること、雇用の改善テンポも極めて弱いことを勘案すると、93年上期における個人消費は緩やかな伸びにとどまろう。

住宅関連の指標については、12月の着工件数は5.5%増と3ヵ月連続増となった。着工件数は住宅投資の先行指数とされており、12月の高い伸びは93年上期のGDP統計に反映されるものとみられる。

物価動向については、12月の消費者物価は総合で前月比0.1%(エネルギーと食料品を除くコア部分も同0.1%)と低い伸びにとどまっている。景気が持続的に潜在成長率を上回って推移することが難しいと予想されることから、今後も物価は安定的に推移しよう。

なお、足もとの長期金利は、(1)ベンツェン財務長官等の増税発言、(2)国債発行の短期債へのシフト(長期債発行額の削減、いわゆるオペレーション・ツイスト)等からやや低下している。ただし、今後については景気が持続的に回復する中で、(1)中長期的に防政赤字を大幅に削減することは困難と予想されること、(2)長期債から短期債への振替が実現しでも、効果は一時的とみられること――から「横這い圏→緩やかな上昇」の推移が予想される。また、金融政策については、(1)足もとの景気が持続的な回復基調にあること、(2)物価が安定的に推移しており、インフレ懸念も少ないこと、(3)金融機関の貸出も対個人、対商工業向けとも徐々に増加に転じつつあること――等から、当面、現状維持となろう。



<日本経済>

日本経済では、先の総合経済対策の実施が遅れる中、消費の低迷、設備投資の減少を中心として内需の不振が続いており、景気後退色は依然として強い。後退局面の長期化から、労働需要の伸びも鈍化傾向を示し、失業率は強含んでいる。生産は7-9月期に一旦下げ止まりの様相を呈したものの、最終需要の弱さを映じて、10-12月期には再び大幅な落ち込みとなった。しかし、在庫はこの減産下でも調整が遅れ気味に推移しており、景気底入れの時期もまだ確認できない状況にある。

個人消費は、所得面の伸び鈍化と消費マインドの慎重化によって、依然低調な推移をしている。足もとの経済指標をみると、11月の家計調査では実質消費支出(全世帯)は前月比▲0.3%とマイナス、12月の大型小売店販売額(店舗調整済)でも前年同月比▲5.7%と7か月連続での減少である。10-12月期の消費動向調査によれば、消費者態度指数(季節調整値)は38.2と、第二次石油危機後の景気後退期(38.2)以来およそ10年ぶりの低水準に落ち込んだ。消費者意識の構成項目別には、物価がプラスの要因であるものの、雇用環境での不安、収入面の見通しが低下していることが悪材料として大きく働いている。次に、雇用関係の指標をみると、12月の有効求人倍率は、0.93倍と3か月続けて1倍を下回り、完全失業率についても12月は2.4%と89年5月以来、3年半ぷりの水準となった。特に製造業(事業所規模5人以上)では、所定外労働時間指数の大幅減少(12月は前年同月比▲21.9%)に加えて、雇用者数の伸び鈍化(同0.1%増)が顕著となっている。

設備投資については、12月の民間建設工事受注は前月比▲5.8%と減少傾向、11月の民間機械受注(船舶・電力除き)は前月比15%増と10月の大福減少(同28.6%)から反動がみられたが、12月は同▲6.2%と減少した。昨年12月実施の法人企業動向調査によると、全産業の92年度の設備投資実績見込みは前年度比▲4.1%の減少、93年上半期(1-6月)でも前期比▲6.2%の減少(計画)となっている。生産面をみると、12月の鉱工業生産指数は前月比▲1.0%、出荷指数も同▲0.8%と共に3ヵ月連続の減少となった。生産者製品在庫指数は低下(同▲0.6%)したものの、同在庫率指数は114.4と昨年10月以降上昇を続けており、在庫調整の進展は足踏み状態にある。

最近の物価動向は、安定基調がより鮮明になってきている。製品需給の全般的な緩和から国内卸売物価は弱含みで推移している。また、これを反映して、消費者物価についても、東京都区部では昨年11月以降約4年振りに前年同月比1%割れの水準が続いている(1月同0.96%増)。

国際収支面では、欧州景気が予想以上に低迷しており輸出は伸び悩みを示しているが、一方で内需不振から輸入も鈍化しており、貿易収支は12月も高水準(年率換算1297億ドル)を維持した。貿易外収支は12月▲114億ドル(年率換算)と最近、赤子が縮少傾向にある。



<ドイツ経済>

西独では、高金利による内需の低迷にマルク高・EMSの混乱による外需の不振が重なり景気は急速に悪化している。連邦統計局の発表(1月13日)によると、92年の西独の実質GNP(暫定値)は0.8%と91年(3.6%)から大幅に低下した。これは82年の▲1.1%以来10年ぶりの低い成長率である。一方、東独では西独からの資金援助に支えられ6.1%のプラス成長となった(91年は▲28.4%)。この結果、統一ドイツの成長率は1.3%となった。物価面ではVAT(付加価値税)の税率引き上げ(14%→15%)の影響から1月の消費者物価は前月比O.7%、前年同月比4.4%と大幅に上昇した(12月は各々0.1%、3.7%)。ただ、VAT要因を除いてみれば前月比伸び率の上昇は小幅とみられる。国際収支については、欧州景気の不振やマルク高の影響から輸出は低迷が続いている。一方、輸出も内需の悪化から伸び悩んでいる。このため、国際収支は一進一退の展開となっている。金融面では連銀は1月半ば、短期金利の一段の低め誘導(8.75%→8.6%)に踏み切った。この結果、短期市場金利とロンパート金利(9.5%)との差はさらに拡大し、政策金利の引き下げ環境が一段と整った。



<イギリス経済>

イギリスでは90年半ば以降続いている景気後退が徐々に底入れし、景気は改善する方向に転換しつつある。雇用面をみると、失業率は依然上昇を続けているものの、求人数は11月以降2ヵ月連続して増加しており、昨年秋頃の最悪期は脱した模様である。ただ、1月に発表された生産、消費関連の経済指標は再び悪化した。このため、政府は急きょベース・レートの再引き下げを実施した(7%→6%)。物価面についてみると、小売物価上昇率はこれまでの需要低迷から鈍化傾向が続いている。12月の前年同月比は2.6%と、88年8月以来の低水準となった。利下げに伴うモーゲージ金利の低下も小売物価上昇率の低下に寄与している。小売物価から「モーゲージ金利支払い」項目を除いた「コア部分」も、9月以降、政府のターゲット(年率1%~4%)内に収まっている。ただ、生産者投入物価には9月以降のポンド安の影響が顕著に表れており、今後、国内物価への波及か懸念される。国際収支については、ポンド安による輸入価格の上昇から、輸出を上回るテンポで輸入が増加しており、貿易収支、経常収支ともに赤字傾向が続いている。

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