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1992年06月01日
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湾岸戦争時にアメリカによって提唱され、世界の主要国がこれに呼応した“新世界秩序”という言葉は、聞かれてから随分久しいものとなるが、未だその全容はもとより主な骨格についても明らかになっていない。
来るミュンヘンでのG7サミットにおいてもロシア問題の処理に忙殺され、おそらく世界全体の新秩序の構築については、論議の大きな進捗は見られそうもない。確かにソ連崩壊のもたらす危機は世界にとって大きな脅威であることには違いないが、そのことのために他の多くの開発途上国の貧困と困難を見逃して良いとは思えない。最近、環境問題の論議こそ活発になって来つつあるけれども、そもそも問題の根源となっている世界人口の著増、なかんずく最貧国におけるその人口の膨張と難民の発生については、事柄が事柄であるだけに問題が深刻化してからでは解決は非常に困難なものであり、いわば一刻の猶予も許されない切迫した事態を迎えていると言っても過言ではない。
翻って貧富の格差が拡大したといわれる富める北側の国々、とりわけその主導的な立場にある先進工業7ヵ国(G7)について最近の政治状況をみると甚だ寒心に耐えない感がある。まず英国においては、総選挙で保守党が辛勝したとはいえ、その政治的基盤は弱められてサッチャリズムからの脱皮に四苦八苦せざるを得ないし、フランスにおいても、先般の地方選挙で大統領の与党である社会党は大敗を喫し、首相の更迭を余儀なくされたほど大統領の威信は傷つき、いわば飽きられてきたというような実情である。イタリアにおいても、与党のみならず野党を含めた既成政党は今回の選挙で大きく後退し、国民の既成政治家離れと国内の南北対立が顕著になってきた。つい最近までその強大化が、EC統合の障害になるとまで恐れられていたドイツのコール政権の威信も急激に低下し、念願であった東西ドイツ統一の成功の果実はすぐには期すべきもない経済困難に陥り、全国的ストライキのために国の機能が麻痺するような有り様で、果ては看板の外相も辞職するような状態である。アメリカ大陸をみても、カナダはケベック州の帰趨に手を焼いており、米国も現職大統領の指導力低下と政治家の威信失墜が著しい。日本は別としても、このように国内での政治的指導力を失っている首脳達が、寄り集まり会合しても果して“新世界秩序”の構築について力強く構想を打ち出すことが、本当に可能であろうか。
G7諸国以外の世界情勢をみても、ソ連崩壊によって多元的価値社会への改革を余儀なく迫られている東欧諸国等においては、その政治的そして経済的な復興・統合がいかに困難を伴うものであるかが、東独統合の予想を超える物的・精神的な負担の例を見るまでもなく明らかとなり、一方ではユーゴスラビアをはじめ世界の各地で民族的自立を求める動きが高まり、既成国家の分裂さえも時の勢いというような状況にある。こうした中で“新世界秩序”という世界を秩序ある規律の下に新たに組織するような非常な困難を伴う事業を、このように政治的かつ経済的に力を失っているG7諸国が果して推進できるかどうかについて多くの期待は持てないようである。
楽観的に考えれば、米国をはじめ世界経済は回復過程に入りつつあり、経済の活性化が新世界秩序形成に必要な活力と動機付けを充分に与えるかも知れない。しかしながら、最近のウルグアイ・ラウンド交渉における各国の足並みの不協和の例に見られる如く、その世界的な経済活性化も世界各国を一律に巻き込んで牽引できるほどG7諸国が、自国の利害関係を超えてでもお互いに協調しながらこれを推進させていくような力強さを本当に示せるであろうか。
今ほど力強い指導力と長期的視野を持ったリーダーの登場が望まれる時はあるまい。
来るミュンヘンでのG7サミットにおいてもロシア問題の処理に忙殺され、おそらく世界全体の新秩序の構築については、論議の大きな進捗は見られそうもない。確かにソ連崩壊のもたらす危機は世界にとって大きな脅威であることには違いないが、そのことのために他の多くの開発途上国の貧困と困難を見逃して良いとは思えない。最近、環境問題の論議こそ活発になって来つつあるけれども、そもそも問題の根源となっている世界人口の著増、なかんずく最貧国におけるその人口の膨張と難民の発生については、事柄が事柄であるだけに問題が深刻化してからでは解決は非常に困難なものであり、いわば一刻の猶予も許されない切迫した事態を迎えていると言っても過言ではない。
翻って貧富の格差が拡大したといわれる富める北側の国々、とりわけその主導的な立場にある先進工業7ヵ国(G7)について最近の政治状況をみると甚だ寒心に耐えない感がある。まず英国においては、総選挙で保守党が辛勝したとはいえ、その政治的基盤は弱められてサッチャリズムからの脱皮に四苦八苦せざるを得ないし、フランスにおいても、先般の地方選挙で大統領の与党である社会党は大敗を喫し、首相の更迭を余儀なくされたほど大統領の威信は傷つき、いわば飽きられてきたというような実情である。イタリアにおいても、与党のみならず野党を含めた既成政党は今回の選挙で大きく後退し、国民の既成政治家離れと国内の南北対立が顕著になってきた。つい最近までその強大化が、EC統合の障害になるとまで恐れられていたドイツのコール政権の威信も急激に低下し、念願であった東西ドイツ統一の成功の果実はすぐには期すべきもない経済困難に陥り、全国的ストライキのために国の機能が麻痺するような有り様で、果ては看板の外相も辞職するような状態である。アメリカ大陸をみても、カナダはケベック州の帰趨に手を焼いており、米国も現職大統領の指導力低下と政治家の威信失墜が著しい。日本は別としても、このように国内での政治的指導力を失っている首脳達が、寄り集まり会合しても果して“新世界秩序”の構築について力強く構想を打ち出すことが、本当に可能であろうか。
G7諸国以外の世界情勢をみても、ソ連崩壊によって多元的価値社会への改革を余儀なく迫られている東欧諸国等においては、その政治的そして経済的な復興・統合がいかに困難を伴うものであるかが、東独統合の予想を超える物的・精神的な負担の例を見るまでもなく明らかとなり、一方ではユーゴスラビアをはじめ世界の各地で民族的自立を求める動きが高まり、既成国家の分裂さえも時の勢いというような状況にある。こうした中で“新世界秩序”という世界を秩序ある規律の下に新たに組織するような非常な困難を伴う事業を、このように政治的かつ経済的に力を失っているG7諸国が果して推進できるかどうかについて多くの期待は持てないようである。
楽観的に考えれば、米国をはじめ世界経済は回復過程に入りつつあり、経済の活性化が新世界秩序形成に必要な活力と動機付けを充分に与えるかも知れない。しかしながら、最近のウルグアイ・ラウンド交渉における各国の足並みの不協和の例に見られる如く、その世界的な経済活性化も世界各国を一律に巻き込んで牽引できるほどG7諸国が、自国の利害関係を超えてでもお互いに協調しながらこれを推進させていくような力強さを本当に示せるであろうか。
今ほど力強い指導力と長期的視野を持ったリーダーの登場が望まれる時はあるまい。
(1992年06月01日「調査月報」)
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