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国会での予算審議は、たびたびの審議停止にもかかわらず、何とか再開の目処がつき、暫定予算が組まれるのは不可避としても、大きな遅れにならずに成立する見込みとなった。予算審議については、参議院の権限が制限されており、衆議院通過後一ヵ月以内には予算案は成立することになっているので、この点に関する限り、問題は片づいたように見える。
しかしながら、予算案は、歳出の権限だけでなく、必要な歳入の見積もりも含んでおり、完全な成立には関係税法の成立が不可欠である。しかも今回の予算案の中には、先の増税法案の継承に近いものを含んでおり、これが参議院を通過するか否かは予断を許さぬ状況である。
その参議院は、7月に半数の改選を控えているが、選挙によって自民党が参議院の総議席の過半数以上を獲得することは、ほぼ絶望的と言われている。巷間一部に伝えられる衆議院の解散による衆参同時選挙を行ったとしても、政局に対する事態の基本的な改善にはならないようであり、日本の政治の不安定性は今後も続くことになろう。加えて、衆議院を解散しようとすれば、少なくとも特定選挙区の議員定数の改正なくしては違憲の誹りを免れず、こうした改正論議は、政治的に紛議の種となることが目に見えており、益々政局の安定性を損なうことになろう。
選挙制度の改正については、衆議院で小選挙区制を導入するか否かにかかわらず、定数配分の大幅な改正なくしては行えないものであり、政治改革論議が、ここへ来てにわかに高まっている。衆議院の選挙制度のあり方については、これから活発な議論がなされるであろうが、その基本的改正に向けた真撃な取組と政治の安定化への努力を期待したいところである。しかしながら、問題の核心は単に衆議院に限られたものではなく、参議院の基本的なあり方をも包含していることである。連邦国家(例えば、アメリカやドイツ)以外の国で上院(第二院)が、日本の参議院ほど強い権限を与えられているところは少なく、本来、政治の安定性と一貫性を図るための第二院が、日本の場合は、かえって政治の安定を阻害しているという予期しない事態を引き起こしており、今や解散のない第二院のあり方そのものが問われている。憲法を含めて日本の政治制度のあり方そのものが、改革を必要としていると言わねばならぬ。
間近に選挙を控えている政局の国として、大統領選挙のアメリカ以外にもイギリス・フランス・ドイツ等のG7主要国があげられる。アメリカ大統領選挙について言えば、現職のブッシュ大統領が、再選を果たせるか否かは、にわかに予断を許さない状況となっており、仮に再選を果たしたとしても上下両院における民主党議員の増勢によっては、大統領の拒否権行使をも極めて困難にしかねない事態も予想され、政局の安定は容易なことではないようである。フランスについても、事態は同様であり、ミッテラン大統領の人気凋落は、社会党政権の敗退にも繋がりかねない状態である。また、イギリスを見てもメージャー首相が、野党労働党に勝利できるか否かは、今後の経済の回復如何にかかっており、ドイツにおいても、現コール連立政権が、選挙に勝てるかどうかは不透明であり、東独や東欧の事態によっては政権交代も起こりうる状況である。いずれにしても、それぞれの現政権が、次の選挙で圧倒的な勝利を収めることは望み難く、政権の帰趨そのものも今後の選挙に懸かるところが大きい。残念ながら今言えることは、このまま行けばこれらのどの国においても、政権の弱体化と政局の不安定化が、避けられそうにないことである。
今や世界は、旧ソ連の崩壊と発展途上国の貧窮化等、深刻な政治的・経済的大問題を抱えており、先進諸国の一致団結した強い政治・経済運営の必要性が、益々高まっている。こうした時に、今年から来年にかけての先進主要国での選挙が、斯くの如く政局の安定に繋がらないことは、我が国にとってのみならず、自由世界全体、ひいては政治的・経済的救済を待つ国々にとっても、誠に嘆かわしいことになりそうである。湾岸戦争の終結とソ連の崩壊後に掲げられた“世界新秩序”という言葉は、いったいどこへ行ってしまったのであろうか。
(1992年04月01日「調査月報」)
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