1991年11月01日

ブッシュ大統領の訪日を生かす

細見 卓

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湾岸戦争への対応の齟齬もあって、延び延びとなっていたブッシュ大統領の訪日がいよいよ実現することになり、その前座としてベーカー国務長官やブレディ財務長官の訪日も予定されている。

日米関係には幾多の起伏があり、非常に良好な時もあるが、又、かなり厳しい緊張関係を示すこともある。そういう意味で日米関係のあり方については、基本的なところにおいて未だ相互の理解や信頼関係に問題が残されていることを表している。

今回の米国首脳の訪日は、仮に太平洋憲章といわれるような格調高い理想に向けての盟約関係を表現する合意の形成に至らないとしても、日米関係のより深い絆の根本的な見直しと評価にとって、またとない好機となる筈である。今回の訪問を将来に亙っての成果に繋がる根本的な日米関係の改善契機とするか、そうではなくて米国首脳の訪問外交の一コマに終わらせてしまうのかは、あげて日本側の心構えと準備のあり方如何といえよう。

自由世界にとって最大の脅威であったソ連邦は崩壊したが、世界の政治的リーダーたるには経済的な問題を抱えている米国にとっては、いわゆる世界の新秩序(ニューワールドオーダー)の形成の為には日本との協力関係は不可欠のものであろう。これに対して日本側では、世界情勢の激変に伴ってにわかに重要度を増した自国の役割についての認識が、今なお混乱しており、日本は世界の中における責任と役割について迷いを隠しきれないでいる。しかしながら、冷戦体制の崩壊に伴う旧秩序の崩壊は、東欧や中東・アフリカといった日本にとっての遠隔地域だけでなく、いまやソ連の極東地区とか、あるいは、中国・北朝鮮・インドシナ等にも影響が及び、世界の新秩序を求めての模索はこれから激しくなり、その行方は定かではない。

このように日本を取り巻く環境は、世界全体の秩序と安寧とに深く組み込まれており、日本だけの平和と繁栄の維持といった視点は全く現実的でない。米国と中国、米国と朝鮮半島、あるいは、米国とソ連の極東軍事地域との関係等その将来は予測困難であるが、いかなる場合でも米国の責任あるプレゼンスなしには解決の望めない問題といわねばならない。

我々は、ブッシュ大統領訪日の機を捉えて米国の対アジア政策の真意について充分話し合うだけでなく、自由・平和・人権といった共通の価値の共有実現に向かって、従来以上の強い連帯関係を維持していくという日本側の決意を充分理解させる絶好の機会である。

あたかもパール・ハーバー50周年を迎え、起こり得る日米緊張を積極的に克服しようとする米国の意図に応えて、ブッシュ大統領訪日に対して将来の末永い日米関係の基礎を築く為には政治・経済・貿易の分野で日本はどうあるべきかを真剣に考える時にあるようだ。

(1991年11月01日「調査月報」)

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