1991年11月01日

経済の動き

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<米国経済>

91年4-6月期の実質GNP成長率は前期比年率▲0.5%(確定値)と、90年10-12月期から3期連続のマイナス成長となった。但し、その内訳をみると消費、住宅・設備投資ともに前期比で増加しており、今回のマイナス成長は大幅な在庫調整、一時的な石油輸入の増加によるものであることから、中身は「悪くはない」と判断される。他の月次統計の動き等とも総合すると、米国景気は4-6月期に底入れしたとのこれまでの見方に変更を迫るものではない。

9月の雇用統計は、失業率が前月から0.1%減少し6.7%となり、非農業部門雇用者数は前月比2万4千人の増加となった。雇用者数の内訳をみると、サービス部門が6万1千人増となる一方、製造業が▲2万5千人となり、サービース部門に比べて製造業の雇用回復の遅れが目立つ結果となった。但し、全体の増加幅は大きいものではなく、依然として景気回復力が弱いことを確認する内容となっている。

生産関係の指標をみると、8月の鉱工業生産は前月比0.3%と4月から5ヵ月連続の上昇となった。設備稼働率も80.0%と緩やかではあるが、5月以降前月比で上昇し続けており、景気回復を示唆する内容となっている。

家計部門の指標をみると、8月の実質可処分所得は前月比0.2%となる一方で、実質消費支出は同▲0.2%となり、所得・消費ともに伸びが停滞している。8月の消費者信用残高も、白動車向け信用が大幅減(前月比)となったため、全体の信用残高は4ヵ月連続の減少となっている。基礎研では今回の景気回復において個人消費の回復力は弱いものとみているが、8月の消費関連指標はこの見通しを裏付けている。

物価動向については、8月の消費者物価、生産者物価ともに前月比0.2%と落ち着いた動きを示している。食料・エネルギーを除いた消費者物価コア部分の前年比上昇率も、1月の5.6%をピークに低下基調にあり、8月は4.6%となっている。今後も物価動向は安定的に推移するとみられるが、その理由としては、(1)需給緩和による労働コストの低下、(2)原油価格の安定、(3)為替の緩やかなドル高傾向からの輸入物価の安定、(4)景気回復に伴う生産性の上昇、等が挙げられる。但し、コアインフレ率に関してはサービス業の賃金上昇率の下げ渋り、付加給付の高止まり等を背景に今後の低下余地は限られると判断される。

FRBは9月13日、公定歩合を0.5%引き下げて5.0%とし、FFレートの目標水準を5.25%とした。公定歩合の引き下げを受けて商業銀行のプライムレートも8.0%に引き下げられた。長期金利の水準も8%台を割り込み、年初から懸念されてきた長期金利の下げ渋りも緩和基調にある。足下の物価動向から判断して、実質金利は低い水準にあるため、今回の金融緩和は最終的なものと判断されよう。実質金利が低いことから、今後は以前にも増してFRBは物価動向に注意を払う必要がでてくるものと考えられる。



<日本経済>

○景気の減速が持続

日本経済は減速傾向を持続している。鉱工業生産指数は弱含んでおり、8月は▲2.1%の低下となった。9月、10月の生産予測指数ともに前月比プラスとなっているが、最近の実現率は昨年10月以来11ヵ月連続でマイナスとなっており、9月、10月の数値は予測値を下回る可能性が高い。また、生産が低迷を続ける反面、製品在庫は大きく積み上がっており、今後生産の足を引っ張る恐れが大きい。

4-6月期のGNP統計(速報)によれば、実質GNPは前期比0.5%の弱い数値となった。民間消費が同1.8%増と高い伸びとなったことから、内需の伸び率は同1.0%と堅調に伸びたものの、外需が前期の投資収益受取の大幅増加の反動から▲0.5%の成長押し下げ要因となったため、GNPの伸びは同0.5%にとどまった。

需要面から関連指標を見ると、8月の新設住宅着工戸数は引き続き前年比で2ケタ減少(▲22.8%)。戸数の水準(季調済・年率)は3月以降140万戸前後で横這いとなっていたものが、8月は同130万戸と大きく落ち込んだ。

設備投資関連の受注統計は、概ねマイナス基調で推移している。機械受注(船舶・電力を除く民需)は前年比で6月は▲2.7%、7月も▲1.0%とマイナス基調となっている。

消費面では、大型小売店販売額は前年比で7月の4.6%増から8月には8.0%増となり、7月には前月の大幅増の反動で鈍化したが、8月には持ち直しを見せている。

○雇用情勢は穏やかに緩和の方向へ

労働需給は依然逼迫しているものの、有効求人倍率(季調済)は景気減速を反映して足もと8月は1.37倍と、90年5月以来15ヵ月ぶりに1.3倍台へ低下した。景気減速は、労働時間(所定外)の減少から、求人にまで波及しつつあるが、雇用者数は未だ堅調に増加している。

○物価は基調的に安定

国内卸売物価上昇率は8月に前年比で1.5%と、低下傾向を示している。消費者物価(東京都区部)は9月の東京都区部が前年比で2.8%上昇と、8月の同3.5%から上昇率が低下している。このうち0.6%は生鮮食品の低下による。石油製品と生鮮食品を除いたコア部分は、全国・東京都ともに3%程度の上昇率での高止まり傾向が持続。

○貿易収支黒字幅は拡大の兆し

貿易黒字は強含みで推移しており、91年4-8月平均で年率983億ドル(国際収支ベース)と、90年度の699億ドルに比べて約40%の増加となった。

特に8月は同1155億ドルの黒字となり、過去の記録(86年8月の同1093億ドル)を更新した。輸出は4月を底に強含みで推移している一方、輸入が内需の鈍化を映じて3か月連続の減少に。金貯蓄の鈍化による影響の他、絵画・自動車等の高級品の落ち込みも全体の足を引っ張っている。



<イギリス経済>

イギリスの景気は依然後退局面にあるが、消費関連の経済指標を中心に景気回復の兆しが見え始めている。8月の新車登録台数は前月比25.1%の増加となり、7月(同15.1%の増加)に引き続いて高い伸びとなった。CBI(英産業連盟)の9月の企業調査結果によると、今後の生産量の見通しについて、「増加する」と回答した企業が「減少する」と回答した企業を90年5月以来初めて上回り、企業の景気見通しも徐々に好転している。物価動向についてみると、小売物価(消費者物価に相当)の前年同月比の伸び率は昨年4月に導入されたコミュニティー・チャージ(人頭税)による物価押し上げ要因の剥落、および金融緩和に伴う住宅ローン金利の引き下げ―等から昨年秋以降低下傾向を辿ってきたが、8月の前年同月比は4.7%と、7月(同5.5%)より顕著に低下した。これは、昨年8月からの原油価格高騰による物価の押し上げ効果の一巡によるものである。

8月の貿易収支の赤字は▲7.4億ポンドと、7月(▲6.1億ポンド)より悪化した。このところ、輸入が輸出の伸びを上回って増加しており、貿易収支が悪化する傾向にある。



<ドイツ経済>

旧西ドイツ地域(以下、西独)の景気は依然堅調に推移しているものの、景気は今年1-3月期に既にピーク・アウトし、徐々に滅塞しつつある。8月の新車登録台数は通貨統合による需要拡大の一巡から、前年同月比▲39.7%と7月(同63.7%)を大きく下回った。また、8月の鉱工業生産は前月比▲1.2%と、7月(▲1.4%)に引き続きマイナスとなった。

消費者物価に相当する生計費は、7月には石油税増税、電話料金の引き上げ等から大幅に上昇し、前年同月比では4.4%と8年半ぷり高水準に達した。しかし、8月以降は、昨年8月からの原油価格高騰による物価押し上げ効果の一巡により、前年同月比でみた物価上昇率は低下傾向にあり、9月は3.9%となった。

国際収支については、(1)東独需要の拡大による輸入の増加、(2)世界景気の後退による輸出の減少―等から貿易収支、経常収支ともに悪化している。7月の貿易収支は▲3億マルクと6月(▲1億マルク)に引き続き赤字となった。8月の未季調の経常収支は▲32億マルクと、4-6月期(月平均▲33億マルク)と同程度の赤字となった。

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