1991年08月01日

政治問題化する英国の国民医療制度

高田 実

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■見出し

1.英国政治の新たなる火種
2.国民医療制度と改革前の課題
3.1991年4月の改革
4.制度改革後の問題点
5.対策と今後の課題
6.おわりに

■英国政治の新たなる火種

昨年過去に例を見ない程の大騒動となった人頭税問題は、結局サッチャー首相を辞任に追い込み、今年度については平均140ポンドの減額、最終的には廃止される運びとなり、ようやく鎮静化した。人頭税の廃止に踏み切ったメジャー首相は、湾岸戦争の勝利も子伝って保守党人気を回復させたかに見えたが、実施期限まで一年を切った次期総選挙を控えて、現在保守党は、(1)対欧州政策における党内部での分裂、(2)長引く景気後退が引き起こす失業者の増大、(3)欧州内で最も低いと言われている教育水準の向上、(4)ナショナル・へルス・サービス=国民医療制度の改革など大きな問題を抱え、最近再びその危機的状況が懸念され始めている。この中で国民医療制度の改革についてリポートしたい。

最近の世論調査では、保守党は対立する労働党、第三政党である自由民主党にすっかり人気を奪われ、労働党に約10%ポイントのリードを許している。この世論調査の内容を詳細に見てみると、インディペンデント紙の世論調査では、有権者が投票する際に最も重視する政策項目として45%が国民医療制度を挙げており、ギャラップ社の調査ではとの国民医療制度が保守党政権維持の障害となる政策項目として挙げられ、この半年間で23ポイントから31ポイントへと伸びを示し、同時に保守党の政策のうち労働党との比較において最も劣るものとしても挙げられている。実はこの国民医療制度は今年の4月に制度上の改革が実施されたばかりなのであるが、国民の間で高まった不満を静めるために実施した改革が更に新たな不満を掻き立てるという皮肉な結果となっている。

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