1990年08月01日

日米構造協議最終報告について

細見 卓

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日米構造協議(SII)の中間報告でもって、問題の処理が終わったのごとき期待が一時もたれたが、実際はそうではなくて最終報告の作成を巡ってかなり激しい交渉が行われた。伝えられたところでは、最もホットな問題になったのは公共事業費の取扱であり、米国側は対GNP比の増大を約束させようという当初の要求から総額提示という日本側の要求を結局飲んだ。その他、系列問題、大店法、特許の審査期間の短縮、公取法違反の課徴金引き上げ等の日本にとっては今後相当の問題になるような事項も最終報告に含まれることになった。

今回のこの最終報告により、所謂スーパー301条の今後の適用を米国議会に思い止まらせることができると日本の行政当局は予測しているようであるが、その成否はなお今後の米国の政治情勢に影響されるところが大きいようだ。しかも、日本側にとってはかなりの負担を伴うこれらの改善を行ったとしても、日本の対米貿易黒字が目立った減少を示すかどうかは必ずしも楽観を許さない、というより為替レートの推移によっては再び問題に火の付く可能性がないとは言えないであろう。

SIIの米国側の要求事項の多くは、日本でも既に指摘されている課題であるにもかかわらず、今日までその改善を見ていないのは、所謂既得権益の強さを示すものであり、経済構造を変革してゆこうという政治意思というものが、日本ではそれほど強くなかったということは否定できないと思われる。従って、SIIで約束したことが実現するかどうかについて米国は、監視機構の設置にこだわったごとく、非常に強い関心を抱いており、この実行が遅延することになると、フォローアップの場等で更に強硬な態度で実行を迫ることであろう。ECを中心とする欧州諸国もSIIの課題に対する日本の改善取組には、大きな関心を持っていると伝えられている。それに対して、日本側には今回の交渉が一方的な外圧であって、日本の面目を著しく失わせたというふうに受け取る向きもあることから、この最終報告の約束の実施に際しては、日本国民全体の一致した強い支持が必要であり、その支持を得るための関係者の努力が切に望まれるところである。

SII交渉にみられるように、日米関係は日米安保に基づく政治的協調をも覆すような厳しい関係に入っている。日本の防衛当局がいうがごとくアジアの冷戦状態が終結していないにもかかわらず、欧州の変化と日米経済摩擦の増大によって、これからあらゆる意味で日本にとって一層有用になろうとする日米安保体制にひびが入るかもしれない状況にあるわけで、SIIの最終報告によって日米経済摩擦が片づいたというわけでなくて、むしろこれからが本番とみるのが正しい認識ではなかろうか。一方、米国でも増税を匂わせる大統領の発言、あるいは教育問題その他についての新しい動きがみられるように、SIIを機会に米国の体質改善を図ろうという姿勢も出てきているようである。たとえ米国の対応がどうであろうと、日本側としては前川委員会以来日本の構造上の問題とされている事項については、自国の問題として真剣に改善に取り組んでゆくべきであろう。

日米経済摩擦の歴史は古く、個別品目を対象に各省レベルから始まったが、今や経済構造全体を対象にトップ同士の節目での交渉が必要になってきている。その意味では、これ以上の交渉はやりようがない所まできているのであり、日本側としても従来にない思い切った成果を挙げて日本に対する不信といらだちを鎮静化し、欧州を含む日本の国際関係の安定と改善に全力を尽くすべき時を迎えていると思われる。

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