1990年07月01日

企業資金調達の再考

京都大学経営管理大学院 川北 英隆

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<要旨>

  1. 現在、上場企業の資金調達は、株式時価発行、転換社債、新株引受権付社債というエクイティーものが中心になっている。
  2. エクイティーファイナンスに対しては、投資家側の要請もあって利益配分ルールが設けられているが、それにもかかわらず配当性向は極端に低くなっている。
  3. エクイティーファイナンスに関しては、配当性向の問題(投資家にとってインカムゲインとキャピタルゲインは同質かという問題)、潜在株の発生、工クイティーファイナンスのコストという観点から検討を行う必要がある。
  4. 潜在株については、それが市場全体として株価の抑制要因になっているとは判断できない。ただそれが浮動株を増加させ、株価の変動を増幅させるという可能性に注意を払うべきである。
  5. 配当性向の問題に対して、内部留保が財テクなどに利用される場合、株主の立場から見ればその資金を配当として受け取るほうが望ましい。また安定的な株式保有を要請されている株主にとっては、配当収入だけが重要であって、株価の上昇は何ら実質的な意味を持たない。
  6. エクイティーファイナンスのコストについて、簡易収益モデルを作成し、資金調達手段毎に一定期間後の内部留保額を比較することにより検討すれば、新規投資の収益率の高い企業ほど借入による調達が有利になる。この要因は、エクイティーファイナンスに伴う利益配分ルール(一定水準の配当性向の公約)、およびエクイティーファイナンスの結巣として必然となる株式安定化のためのコストの必要性(持ち合い資金の必要性)である。
  7. 企業にとって、エクイティーファイナンスのコストを借入に比べて絶対的に有利なものとするには(株式安定化に必要なコストは仕方ないものとして)、利益配分ルールの見直しもしくは廃止が要望されることになろう。
  8. 利益配分ルールの廃止は、配当に関する企業意思の尊重という観点に限定すれば、理論的に正しい。しかし、企業の株式安定化に対する希望や年金資産などの効率的な運用への希望と果たしてどこまで整合的なのか、という点を十分に考慮しなければならない。利益配分ルールについては、このような問題を含め、総合的な観点から検討する必要がある。

(1990年07月01日「調査月報」)

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