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所謂鉄のカーテンによって長い間西側との交流どころか、覗き見ることにすら多くの制約のあったソ連を含む東欧の政治経済の実情が、ゴルバチョフのペレストロイカ、グラスノスチによって段々明らかになってきている。と同時に東側において政治経済の困難さからの脱出のため、西側からの援助、協力を望む声が急に大きくなってきている。例えば、先般のパリサミットにおいては、ゴルバチョフが議長間のフランスのミッテラン大統領に親書を寄せて、東西協力による世界経済の発展を呼びかけ、実現しなかったもののミッテラン大統領は当面の経済困難を克服するための南北対話を提唱するといった従来のサミットでは考えられない展開があった。これをみてもわかるように、戦後40数年を経て根本的な変革を含む戦後東西体制の再編成への動きが強い潮流として出てきている。
東欧についてみると、ハンガリーはいち早く市場経済を受け入れるとともに、複数政党制の容認を打ち出している。ポーランドでは、東側として初めて共産党主流でない政党から首相が選ばれ、また連立とはいえ内閣が組織されることとなった。このような自由化がソ連及び東側体制によってどこまで認められるかは、今すぐ判断できないがこれは明らかに戦後ヤルタ体制の崩壊現象であることは間違いないであろう。
超大国ソ連という長い間のイメージは、その実体が西側に明らかになるにつれて崩れつつある。予想外に停滞した経済と硬直した社会によって、今後の発展は困難とみざるを得ない。更に、言わばこの地上の最後の植民帝国として国内に民族主義と反植民地主義の高まりという爆弾を抱えており、他の国々に起こった民族自決というものがソ連においても避けられないという予測が強くなってきている。現在は、パルト海沿岸地域やトルコ系民族において民族自立の動きが非常に激しいが、もしソ連で民族自決ということになるとすれば、ウクライナ、コーカサスあるいは回教系諸民族等もいるため、ソ連が分裂といった大変革につながらないという保証はない。現実には、軍事力による制圧とか政治的な工作が行われるとは思うが、このような言わば構造的問題を抱えていることは明らかであり、ソ連には今や従来のように完全に東欧を支配する余裕がないということは否定できないであろう。
勿論、東欧といっても多様な政権が異なった方策をとっており、ハンガリー、ポーランドのような自由化路線に全部が賛同するとは考えられないけれども、西欧なかんずく西独との経済関係は前述のソ連の後退を補うような形で進行しているようである。その意味で西独がどこまで東欧にコミットするのか、またそのような西独の親ソ、親東欧政策の西側へのインパクトはどうなるのか、あるいは西独があくまで西側にとどまりソ連、東欧との経済協力に慎重という選択をとるのかという点について、今世界が注目しているところである。
このように、第二次大戦後の体制が新しく生まれ変わる過程における欧州の動きの中では、西独の役割、影響力は非常に大きなものがあり、今後の欧州ひいては世界の政治外交経済の将来を決める重要なポイン卜になろう。我が国も、そのような状況によく注意を払うとともに、体制変化の流れを認識して対外政策の方向を定めるべきであろう。また、日本自身がアジアにおける戦後体制の変化の中心として、世界から注目を集めていることも事実であり、ともすれば不明瞭な外交の基本政策について方向付けをしっかりとしておくことも忘れてはならないであろう。
(1989年10月01日「調査月報」)
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