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日本の海外援助は、そもそも戦後の賠償支払が源であるため言わば日本の選択の自由がなく相手国側の要請、希望する事業・施設等に援助を提供することから始まった。その後賠償は終結したが、引き続きの援助要望が強かったため海外援助は東側世界を除いて世界中に拡大した。
従って、国際国家、世界の主要国という観点から、戦後世界をいかに繁栄せしめるか、そのために日本はいかなる貢献をするのかという視点から海外援助は始まっていない。このことは歴史的にみて止むを得ないが、今日のごとく年間100億ドルを超す援助を行い米国に次ぐ援助供与国になってくれば、基本的現念を欠いたまま援助金額のみ拡大するという現状を放置する時には、全体としてその効果が削減されるだけでなく日本の国際的役割への自覚というものも疑われるという事態になりかねない。また、単に日本からただで援助をもらえばよいという風潮を被援助国側に呼び起こすとすれば由々しき国家的担失である。
その意味で軍事大国にはならないと誓っている我が国が、軍事負担の相対的に軽いことの見返りとして、世界の平和、世界の人類の福祉のための公共財の提供という大きな目標に対して、いかなる理念を持って取り組んでいるかということを世界に明らかにすべき段階になっている。このことは単に、限界に向かっていかなる貢献を、いかなる分野に、いかなる手段でしようとしているかを明確にすべきであるということだけでなく、国民の汗の結晶である貴重な富を世界の人達の福祉のために、最も有効に活用しなければならないという国内的な責務でもある。
世界のあらゆる国と資源や原料と引き換えに、工業製品を売りさばく貿易国家としての総合安全保障の立場というのが、我が国の海外援助の理念と言われていたが、今日のように世界平和と安全のために、軍事的、外交的な貢献をすることが強く要請される時代には自国の生存のための円滑な貿易の推進を、念頭に置いた対外援助政策では許されず時代遅れとなっている。我が国は一日も早く、どういうことを、どういう方面で、どのようにして、世界の繁栄のために役立とうとしているかを、明確な言葉で明確な意見として表現する段階に来ている。現状のまま、ただ単に援助額のみを拡大してゆくということは、理念なき国家という謗りを受けることにもなりかねない。
我が国として、日本国民の目標とする世界への貢献とは何かという観点から、海外援助の理念をきっちりと構築し、世界へ公表し、それに基っき援助を着実に実行してゆくということにすみやかに取組まねばならない時と思われる。
(1988年09月01日「調査月報」)
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