コラム
2013年06月25日

若者に経済成長の喜びと楽しさを

竹内 一雅

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「福岡の成長が現在も止まらない」。
   これは1980年代のバブル期の話ではありません。福岡の主要経済誌「ふくおか経済」2012年11月号の特集「福岡の“未来図”」の冒頭に書かれていた文章です。全国の主要都市を不動産の調査で回るため、各地域の経済誌をチェックしているのですが、この記事はここ数年で最も印象に残ったもののひとつです。
   確かに、すでに実現した九州新幹線の開通に加え、人口の増加、アジアとの近接性、空港の拡張、港湾機能の強化、地下鉄七隈線の博多駅への延伸、博多駅・天神地区の再開発の進展、コンテンツ産業の立地など、福岡には明るい話題があふれています。それでも、現在の日本で、このように「明るい未来」を語ることのできる都市が存在していることに強い印象を受けました。また、同時に、わたし自身、心の中で知らず知らずのうちに日本国内での成長に対してあきらめに似た気持ちを持っていたことに気づかされました。

先日、アベノミクスの第三の矢として、成長戦略「日本再興戦略 ジャパン・イズ・バック」が閣議決定されました。これは、「かつての自信を失い、将来への希望を持てなくなっている」国民に対して「自信を回復」させようと鼓舞するものになっています。この成長戦略は日本にどのような「明るい未来」をもたらすのでしょうか。10年後や20年後に、「日本の成長が止まらない」というような記事を読むことができればどんなに楽しいでしょう。

そして何よりも、この経済成長が、多くの若者に経済が成長する喜びや楽しさ、さらに将来への希望を与えられるものになればと思います。30代以下の人たちの多くは高成長の社会で生きる楽しさを体感した経験がないでしょう。たとえばバブル経済の時代、社会全体が浮かれて失敗も多かったと思いますが、昨日よりも今日、今日よりも明日と所得は伸び、日本全体と自分自身がともに豊かになることを感じながら生きていたように思います。当時は誰もが「24時間戦えますか?」という無茶な働き方と遊び方をしていたものですが。
   バブル経済崩壊後は、2000年頃のITバブルや2007年頃のファンドバブルがありましたが、経済格差の拡大により果実は一部の成功者に配分され、多くの若者にとっては、ひとりひとりが豊かになっているという実感、つまり経済成長による喜びや楽しさは乏しかったと思います。

多くの若者が経済成長の喜びや楽しさを感じることが、将来への希望を育て、それが次の成長への種となっていくのではないでしょうか。たとえば現在、福岡の開業率が主要都市で最も高く、起業が活発な都市となっているのも、そうしたサイクルのひとつの表れかもしれません。数年前、旅行先で出会った人たちと居酒屋で話していたとき、日本のこういうところが問題だと年配のわたしたちが熱く語るのに対して、20代の男性が「でも、どうせ願ってもかないませんからねー」と冷めた言い方をしていたのを思い出します。将来もどうせこんなもんだよと感じている若者たちに、経済成長の喜びや楽しさとともに、努力すれば希望がかなう社会を伝えられればと思うのです。

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